表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/98

第5話『ニニィとヘイス』

2年前(2028年)



「能力をうまく使えるようにしなさい。必ず自分のためになるさ」



そう告げたのは、リリアの恩人・エイダだった。



「辛いだけで、いいことなんてないですよ」



「いいかい? 君は特別だ。ほかの誰かとは違う。その力を伸ばすことは、君にとって大事なことだ」



「わかった! エイダさんが言うなら、頑張ってみるよ」



それからリリアは、能力の鍛錬に明け暮れる日々を送る。

人の思考を操る練習に加え、無機物を浮かせる力を飛躍的(ひやくてき)に伸ばした。

やがて、自分の体を乗せて飛行できるまでに成長する。



「エイダさん、見て! 私、飛べるよ!」



「よくやったね。次は思考操作をもっと(みが)きなさい」



「うん!」





現在



「うっ! やっぱり慣れてないせいで、うまく目を開けられない!」



リリアは必死に(まゆ)とキールを追った。

だが、(まゆ)の速度はあまりに速く、やがて見失ってしまう。

すると、轟音(ごうおん)と共にジェット機が現れ、声が聞こえる。



「リーちゃん! 乗って~!」



包むような声がリリアの耳に届く。



「ヘーちゃん!? なんで、ここに?」



ジェット機に乗る人物の姿を見て、リリアは驚いた。



「イオラさんに黙ってきちゃった~」



ヘイス・アルランド――通称“へーちゃん”。

2年前、リリアがアウローラに来てからできた初めての友人で、技術部門に所属する隊員だった。カールがかかった長い金髪にセンター分け。糸のように細い目で柔和(にゅうわ)に笑っていた。   



リリアは能力を解き、ジェット機に乗り込む。



「へーちゃん、ありがとう」



突如、通信が入り、イオラの怒鳴り声が響いた。



「ヘイス!! 許可なくジェット機を動かすなんて、どういうこと!?」



「リーちゃんを乗せて、そのままキールくんの救出に向かいまーす」



ヘイスは、朗らかな声でイオラの問いを無視をする。



「今すぐ引き返しなさい!!」



「もともとキール君と向かう予定だったんですから、いいじゃないですか~」



ヘイスは核心を突いたように言う。



「イオラさん、私たちなら大丈夫です。必ずキールを助け出します!」



リリアは通信に割り込み、強い気持ちをイオラに伝えた。



「リリア……」



長い沈黙ののち、イオラの声が返ってくる。



「それでも、認められないわ。今すぐ引き返して」



イオラがそう告げると、ヘイスは通話を切った。



「へーちゃん??」



「あとで一緒に処罰受けましょうね~」



ヘイスの思い切りの良さに、リリアは驚きつつも(うなず)いた。



「キール君を(さら)った犯人と、目撃されていた球体のUMHは同一犯でよさそうね~」



「でも、どうしてキールを……」



リリアの顔に不安の色が濃く浮かんでいる。



「まずは、救難信号のあった場所に行きましょ~」



ヘイスは改造ジェット機をさらに加速させ、ステルスモードを起動した。




3時間後



救難信号が発信されている地点の近くに、ジェット機を降ろす。



「ここって……」



リリアは思わず、息を()んだ。



「アマゾン北部。信号源は近いわ~」



目の前に広がるのは、どこまでも続くジャングル。

太い根が大地を(おお)い、湿気を帯びた空気が肌にまとわりつく。

夜の闇に包まれた木々の間から、名も知らぬ虫たちの羽音(はおと)が響いていた。

視界を(おお)う闇は濃く、明かりすらほとんど届かない。



「リーちゃん、これ〜」



ヘイスはスプレーを渡す。



「なにこれ?」



「私の特製虫よけスプレー。どんな虫でも寄ってこなくなるの~」



子どものようにニコニコするヘイス。



「ありがとう! さすが、へーちゃん」



「虫なんて、この世から消えてくれればいいのにね~」



「……」



リリアは返す言葉が見つからず、ただスプレーを見つめた。



二人は救難信号のある場所へと歩き出す。



ギギギギ……



森を歩く中、突如ノイズの入った音が聞こえた。



「これ、何の音?」



リリアは身構(みがま)える。



「救難信号の方向ね。行ってみましょ~」



ヘイスは迷いなく、進んだ。

やがて、耳を打つ音が近づき、二人は現場にたどり着く。



「なに、これ……」



リリアの瞳が大きく見開かれ、そこに広がる光景を捉える。

木に、小さな女の子のようなロボットが、蜘蛛(くも)の糸でぐるぐる巻きにされていた。

ロボットは動こうとするも、身動きが取れない。



「今、助けるから!」



リリアはすぐに能力を発動し、(から)みつく糸を引きはがそうとした。



「取れない……」



リリアは必死に力を込めるが、糸は取れない。

すると、ヘイスは素早く銃を展開し、熱光線を浴びせ、表面が溶けて消えていく。



リリアはヘイスが銃で溶かしている部位に、意識を集中させた。

全身に力を込め、体の奥から(しぼ)り出すように能力を練り上げる。



「――――っ!!」



糸にほころびが走り、(しば)られていた糸が地面に落ちる。



「はぁ、はぁ、外れた....」



リリアはその場に倒れ込む。



「リーちゃん、大丈夫??」



ヘイスが(あわ)てて駆け寄り、手を差し伸べる。



「うん、ありがとう。少し立ち(くら)みがしただけ……」



「わっ!!」



ロボットが勢いよく、リリアに抱きついた。



「ありがとう!!」



無邪気な子どもの声に機械の響きが混じった、不思議と愛らしい声。



「お姉ちゃんは命の恩人だよ!」



ロボットはリリアの胸元に顔を押しつけ、嬉しそうにこすりながら言葉を漏らした。



「しゃべった、人間みたい……」



リリアは唖然(あぜん)としながらロボットを見る。



「あなたのお名前は? 救難信号を送ったのはあなた?」



ヘイスが声をかけると、ロボットは嬉しそうに口を開いた。



「あたし、ニニィ!! 信号を送ったのは私! 友だちが(まゆ)のUM…怪物に捕まって、助けようとしたら糸でぐるぐる巻きにされちゃったの!!」



ニニィの髪は白銀(はくぎん)に近い(あわ)い色のボブヘア。瞳は透き通る緑色。砂色(すないろ)のメカニカルスーツがボディで、肩や腕には金属の関節補助が組み込まれている。背中には大きなスプリング状の機構がむき出しになっている。

機械であり少女でもあるその姿は、戦場の兵器のようにも、未来から迷い込んだ(はかな)い人形のようにも見えた。



ヘイスは目を細め、問いかける。



「あなた、さっきUMHってなぜ言いかけたのかしら~。何を知っているの~?」



「知らない! そんなの知らないよ!」



ニニィは突然声を荒げ、否定する。



「やっぱり、ただのロボットじゃなさそうね~」



ヘイスはじりじりと詰め寄る。

リリアは困惑の目をニニィへ向けるが、ニニィは(かたく)なに沈黙を貫いていた。



「何か言わないとわからないわ~」



ヘイスはさらに詰める。

リリアは、このときニニィから伝わってきた(おび)えの感情に、自分の過去を重ねてしまう。



「ちょっとへーちゃん、そんなふうに詰めたら、言えるものも言えないよ。それに、この子(おび)えてるよ」



リリアは優しくヘイスを制止した。

ニニィは震える手を強く握りしめる。



「友達はUMHだよ。でも、絶対にあなたたちアウローラには渡さない!」



その瞬間、ヘイスは銃の形を電撃を帯びた銃身に変化させる。

ヘイスの武器は自作で、状況に応じて自在に形を変えるものだった。

その銃口が、まっすぐニニィへと向けられる。



「ちょっと、へーちゃん! 何してるの!?」



リリアの声が鋭く響く。



「ただのロボットが機密情報を知っているなんて変よね~。おとなしくね~」



穏やかに言い方だが、その声には鋭さが混じっていた。



「お姉さん怖いよ……」



ニニィは(おび)えたように声を震わせる。

それでもブーストを噴射(ふんしゃ)し、その場から逃れようとした。



「ニニィちゃん、停止してね~」



ヘイスが冷ややかに銃口を向ける。



「へーちゃん、撃っちゃダメ!」



リリアは思わず飛び出し、必死に制止する。

だがヘイスの指は、電気銃の引き金にかかっていた。

リリアはそっと目を閉じ、深く意識を集中させる。



「ごめん、へーちゃん……」



リリアは手をかざすと、力が静かにヘイスの頭へと流れ込む。



「眠って……」



(ささや)きと同時に、ヘイスの瞳がゆっくり閉じ、体から力が抜け、ゆっくりと倒れる。

リリアはすぐに駆け寄り、倒れたヘイスの体を抱き起こす。



「許して、へーちゃん。こうするしか……」



リリアは辺りを見渡し、誰にも見つからないような、大樹の(みき)に開いた空洞(くうどう)を見つける。

リリアは慎重にそこへ、ヘイスを運び入れた。



「必ず、あとで迎えに来るからね……」



リリアはこの選択が正しかったのか、悩んだが前に進むしかなかった。

リリアは、倒れたヘイスが手放した武器を拾い上げる。

それを握りしめ、ニニィのもとへ歩み寄った。



「お姉ちゃん、ありがと……」



見上げるようにリリアを見つめるニニィ。

リリアは微笑み、そっと声をかけた。



「私、リリア。大丈夫。お友達、一緒に探そ!」



ニニィの顔は明るくなり、元気な声で答える。



「うん!」



二人は肩を並べ、森の奥へと歩き出した。



しばらく歩いたあと、リリアは問いかける。



「お友達が捕まるまで、ニニィたちは何をしてたの?」



ニニィは少し間をおいて答えた。



「あたしたち、困っている人を助けながら(めぐ)んでもらって、世界中を旅してたの。最近、ここで人が(さら)われているって聞いて、ワイスと一緒に解決しようとしたら、そのUMHに遭遇(そうぐう)して、ワイスは捕まっちゃって……」



リリアはさらに尋ねる。



「じゃあ、どうしてアウローラに信号を送ったの?」



「信用できなかったけど、アウローラの人しか頼れないと思ったの。アウローラのことはハッキングで知ったから」



ニニィは下を向き、力のない声で言葉を落とす。

リリアは安心させるように微笑んだ。



「そうなんだ。でもアウローラは悪い組織じゃないよ。だから、そんなに(おび)えなくて大丈夫」



「お姉ちゃんが言うなら信じるけど、ワイスだけは、絶対にダメ!」



ニニィは語尾を強め、その小さな瞳には強い光を宿していた。



「どうして?」



リリアが問い返すと、ニニィは小さな声で答える。



「ワイスは他のUMHとは違うの……」



声はどんどん小さくなり、背中も縮こまっていく。

しょんぼりしたニニィの姿に、リリアは少しでも(はげ)まそうと口を開いた。



「大丈夫、ニニィ! ワイスはきっと、ニニィのことを待ってるよ!」



「そうだよね! 早く見つけないと!」



さっきまで(くも)っていたニニィの表情に笑みが戻り、声にも力が宿っていった。



太陽が昇り、時刻はすでに午前5時を回っていた。

木々が()(しげ)る森の奥で、異様な光景を目にする。



口を開けた洞窟。入り口から奥へと、白く光る蜘蛛(くも)の糸が張り巡らされていた。



「ここって……」



「ワイス!!」



ニニィが確信に満ちた声を上げ、迷いなく駆け出した。



「ちょっと! ニニィ、待って!」



リリアは(あわ)てて追いかける。



洞窟の奥へ進むと、そこには広い空間が広がっていた。

天井から垂れ下がる“何か”がある。



「ワイス……?」



ニニィの声は(かす)れて震える。



「はぁはぁ、ニニィ。敵がいるかもしれないんだから……」



息を切らしながら顔を上げたリリアの視界に、影が映る。

胸の奥が冷え、声が(のど)に詰まった。

何かがおかしい。

ゆっくりと焦点が合うにつれ、、瞳孔(どうこう)が大きく開いていく。



「あっ……」



全身から力が抜け、耐えきれず(ひざ)が崩れ落ち、尻もちをついた。



「キー…ル、なん…で??」



震え声が洞窟に反響し、今にも泣き出しそうになる。

天井に()られていたのは、首に糸を巻かれたキールの姿。

揺れるその影は、まるで命の灯がすでに絶たれているかのように見えた。

第5話まで読んでいただきありがとうございます!

ここからさらに、加速していきます!

気に入った方は、高評価、ブックマークをお願いします!

感想もぜひ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ