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第1話『最悪の出会い』

日本 東京  フェイ・マンション5階


2030年 4月13日



「ンフフフ~......よし、これで完璧!」


洗面所の鏡の前には、化粧品の(びん)やパレットが散らばっている。

鏡に映るのは、モデルのように可愛らしく整った顔立ち。

濃い黄緑の髪は前髪まで丁寧に整えられ、時間をかけたメイクがその美しさを際立(きわだ)たせていた。

身にまとっているのは、買ったばかりのショート(たけ)のニットワンピース。

すらりとした(あし)がのぞき、全身が『今日のための武装』となっている。

彼女史上、最高の仕上がりだった。




ピンポーン

インターホンが鳴り、彼女は軽快なリズムで玄関に向かう。

「はい!」


ドアを開けると、彼女の前に立っていたのは水色髪の青年だった。

中性的で、思わず視線を奪われるほど整った顔立ち。


華奢(きゃしゃ)輪郭(りんかく)には似つかわしくない装備。


(ひざ)まで隠す黒革のブーツに、ところどころ裂け目の走ったカーゴパンツ。

フードが付いた、口元まで(おお)う黒の隊服。両手には硬質(こうしつ)なグローブがはめられていた。



「あなたが有川莉々愛(ありかわりりあ)さんですか?」


「はい。そうですけど...なにか?」



リリアは、青年の顔をじっと見て、次の言葉を待った。



「命の危険があるので護衛しますね。今からずっと」


「はい?」


リリアは思わず目を大きく見開き、口をぽかんと開けた。


「ですから、有川さんといっしょに」


「はあぁ。そういうの間に合ってるんで...」


リリアは引きつった笑みを浮かべて、扉を閉めようとしたが青年が強引に止めた。


「あれ、聞いてないですか?

 とりあえず出歩かないでください」



リリアが必死に引こうとするドアを、青年が同じ力で押し返していた。

取っ手がきしむ。

押す力と引く力が拮抗し、ドアは一ミリも動かない。



「ちょっと勝手に話し進めないでよ。私、今からデートなんだけど」

リリアは声をわずかにあらげる。



「それ、キャンセルで」

青年は呼吸をするように淡々と告げた。



「キャンセルで、じゃないし!私は店員じゃないの!!」



リリアはドアを引こうとする力をさらに強めた。

すると、青年は真顔のまま、とんでもないことを言う。



「知ってます。店員さんなら、もっと愛想(あいそ)いいですから」


リリアは「はぁ!?」とでも言いたげに、目を丸くした。


「そういうのはいいんで...危ないんですよ本当に」


「危ないのはあんたの頭でしょ!」



バタン!

リリアはドアを引き戻す手に全力で力を込め、扉を閉めた。

胸の鼓動(こどう)は、デート前のときめきじゃなくイライラで爆発寸前だった。






都内某所 カフェ内


「ってことがあってさ、英くんとのデート遅れちゃったのー。ごめんね!」

「いいって。それにしても災難だったね」

はにかんだ笑顔でそう言ったのは、リリアの自慢の彼氏・(ひで)

歩幅を合わせてくれるさりげなさと日に焼けた肌のカッコよさがいつもリリアの心を甘く揺らす。

英と付き合ってから、リリアの心のキャンバスは色彩豊(しきさいゆた)かに染まり、毎日が輝いていた。



「マジでわけわかんないよー!このモヤモヤ、英くんわすれさせて!」

リリアはわざと甘ったるい声色(こわいろ)を作ってみせた。

「もちろん!今日のリリア、最高にかわいいよ...」


照れて(ほほ)を染める。それでも、笑顔のまま、きらめく瞳で彼を見上げた。


「もうやめてよ♡ いこっ」


その日のデートは、リリアにとって最高の時間だった。


映画館では手を繋いだだけで心臓の鼓動が早くなり、一緒に取ったプリクラを英が照れながら受け取った。

この時間、リリアの心は常に最高地点にあった。


2人は最後に夜景で有名な展望台へ行った。


「わぁー!昼の眺めも綺麗...英くんとずっとこうしていたいな....」

風景を眺めながらも、リリアの瞳は自然と英の方へと揺れた。


「俺もリリアと年をとってもこうしてたいよ」

リリアはこみ上げる幸福を、そっと心の中で()みしめた。

「......私ね、英くんなしじゃ生きていけないくらい好き」



 (これが私の幸せ)

その確信を(いだ)き、リリアは英の横顔に微笑んだ。


昼の光が二人の未来を照らしていた。




帰宅後


リリアは風呂を済ませ、もこもこのパジャマでベッドに飛び込んだ。

スマホ画面に文字を打ち込む。


リリア『今日はありがとう!!

    すごく楽しかった!来週のヘリ楽しみにしてる!』


リリアは枕に顔を沈ませ、子どものように足をバタつかせた


(幸せすぎて死ぬんだけど!!やばい!

 ほんとに泡みたいに消えちゃいそうなくらいーー)

 


その瞬間、幸福に(よど)んだ記憶が流れ込む。


ーー『あなたは怪物よ!もう消えて!』


ーー『あなた、自分が1番だと勘違いしてない?』


ーー『お姉ちゃんどうして行っちゃうの....』



幸せの(うず)に、黒い過去がノイズみたいに混ざって、リリアの心をかき乱す。


(思い出しちゃダメ。忘れるって決めたんだ。

 あの日々も、あの家も。

 英くんなら、きっと私は普通にさせてくれる。

 もう誰にも、私の人生を壊させない。)






プルルルル

スマホが震え、リリアは条件反射で電話を取った。


「英くんっ?」


リリアは通話ボタンを押した瞬間、思わず声が弾んだ。


「ちがうわ、イオラよ」

返ってきたのは違う声。リリアは拍子抜(ひょうしぬ)けしたが、不思議と安心した。

「あっ、イオラさん!元気でしたか?」


イオラはリリアを支える機関のトップであり、頼れる存在である。


「元気よ。あなた...心配になるくらい連絡してこないわね」


「ごめんなさい!毎日、楽しくって...」

イオラの心配とは裏腹にリリアは(はず)んだ声で言った。


「それならよかったわ。そんなときに、ごめんなさいね。

 最近、UMH絡みであなたを名指しで探している者がいるの」


リリアの心の中に、氷のような冷たさが染み込んでくる。

「えっ......なん、で。私、UMHってだれにも...」


UMH(未証明変異人間)ーー。

突如として、出現した超常的な能力を持つ人間。

世間では、その数の少なさから噂や都市伝説程度の存在である。



「あなたを探している以上、身の危険があるわ。明日、護衛が来る予定だから」


リリアは朝の奇妙な出来事が脳裏に浮かんだ。


「あっ、もしかして水色髪の男の子ですか?」





一瞬の静寂(せいじゃく)(つつ)まれる。






「......はぁぁ。あの子ったら明日って言ったのに」

イオラはあきれたようにため息をついた


「あの人なんなんですか!?いきなり、人の家に来て意味不明なこと言って!」

感情が抑えられず、言葉にあふれ出た。


「ごめんなさいね...。任務になると、力が入っちゃって言葉足らずになるの全く」

イオラの声には(あき)れが(にじ)んだ。


「生活の邪魔になるなら、あんなヤツの護衛はなしでお願いします!」

リリアは少し強めの口調で言った。


「あなたの気持ちはよくわかるわ 。でも、最近UMH狩りを行っている者たちもいるし、危険なの」


イオラが電話越しにリリアを心配する。

しかし、リリアは声を荒げて抵抗した。


「いやです!せっかく、普通になれるのに護衛だなんて...」



その後もリリアは、「嫌だ」と繰り返した。

イオラは(さと)すように、時には(しか)るように、リリアを説得する。

それでもリリアは折れなかった 。

あの名前を聞くまではーー。


「わかってちょうだい。

 これはエイダさんから、直々に頼まれていることでもあるの」


『エイダ』

その名を聞いた瞬間、リリアの心が止まった。

リリアを救った、かけがえのない大恩人。

「エイダさんから!?」


リリアの気持ちが揺らぐ。


「......なら、わかりました。ただし、条件をつけさせてください...」






翌日、リリアは家を訪ねた水色髪の青年を招き入れる。


リリアはきつめの口調で釘を刺した。

「基本的に出歩く時は私の視界に入らないこと。

 それと家にいる時は帰って。あと、話しかけてこないで。それから...」


リリアの条件を(さえぎ)るように青年は言う。

「それじゃ手遅れになる可能性が...」


さらに、不満そうに言う青年の声にかぶせて、リリアは声を荒げた。

「それが、できないなら!護衛はなしってイオラさんと話はつけてるから。

 だいたいなんの説明もなしに来るとか、どういう神経してんの。

 あんた根っからのバカでしょ」


「恋人といる時のあなたの方が、よっぽど馬鹿に見えますけどね」


ボソッとつぶやいた青年の言葉にリリアは再び目を見開いてその場に立ち尽くした


「あんた今なんて?...もしかして昨日、つけてた!?」


「はい」


その答えにリリアは目を見開く。

力が抜けて、リリアは椅子(いす)に座り込んだ。

「...はぁぁ」



「犯人を捕まえるまでの辛抱(しんぼう)なので」


青年はいつものごとく淡々(たんたん)と告げた。

しかし、今のリリアにはどうしようもなく腹が立ち、意地悪を言った。


「それっていつまでかかるの。1週間?1か月?1年?10年?」


青年は答えに困ったような顔で言う。

「いつまでか、僕にもわかりません。でも、放っておけば取り返しのつかないことになると思います」



「私はもう後ろは振り返らないって、決めたんだから邪魔しないで!」

リリアはもう一度、釘を刺すように言った。

胸の奥が爆発しそうであり、本当にやめてほしかったが青年は折れない


「なんでそこまでして...理解できません」



その言葉にリリアは限界を迎えて、感情が爆発する。

「あんたに私の何がわかるっていうの!

 それに命が優先なら、何をしてもいいと思わないで!」



リリアがそっと手を掲げた。

その瞬間、青年の足が勝手に動き出す。

頭では止まれと命じているのに、身体は言うことを聞かない。

まるで見えない糸に引かれるように、視界が揺れながら進んでいく。


リリアは無言のまま、ただ腕を伸ばし続けていた。

そして青年は逆らえぬ力に押し出されるように、玄関を抜け、マンションの外へと追いやられていく。

青年を外へ追い出したリリアは、安堵(あんど)の息を吐きながらマンションへ戻ろうと振り返った。




その時ーー。




ドンッ!





(にぶ)い衝撃音が空気を裂き、リリアは一瞬にして止まった。



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RT企画のご参加、ありがとうございます。 地球侵略と英雄カイン・ヘスラスの出現、そしてUMH(未証明変異人間)の発生、組織〈アウローラ〉の設立と保護という歴史が簡潔にまとめられており、世界の輪郭が掴み…
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