プロローグ『UMH:0』
広々とした会議室。
光はカーテンに遮られ、室内は薄暗く重い空気が漂っている。
円卓に、対照的に二つの椅子が置かれていた。
広大な会議室の中央で、少女と男性は向かい合う形で腰掛けている。
静寂を破ったのは、男性の低い声だった。
「……UMHについて知らない学生が現れる時代になったのか」
少女は緊張を隠すように背筋を伸ばし、答える。
「はい。私たちの世代は知らないので」
「今回の閲覧は特別だ。辛いものを見ることになるが、覚悟はいいか?」
少女は一瞬だけ息をのんだが、すぐに小さく頷いた。
「……はい」
パソコンの電源が入り、光が彼女の顔を照らす。
その瞳はわずかに揺れながらも、確かに画面の奥を見据えていた。
2010年9月17日 地球侵略と英雄の出現
空を覆い隠す異星艦隊が出現し、地球侵略を始める。
都市は焼かれ、人々を蹂躙し、地球は突如として危機に瀕した。
その時、一人の青年が立ち上がる。
名はカイン・ヘスラス。
彼が何者であったのか、誰も知らない。
激闘の果てに、侵略艦隊は跡形もなく消えた。
地球を救った英雄。
そう呼ばれるようになったのも束の間、彼は人々の前から忽然と姿を消した。
残されたのは、地球を救った記録と、彼の名前のみ。
当時、それ以上のことは、何一つわかっていない。
「……本当に、こんな人がいたんだ」
少女は思わず呟いた。
画面が切り替わる。
2010年9月25日 Unverified Mutated Human:未証明変異人間の出現
世界各地で、常識では説明できない力を持つ人間が次々と確認された。
人々は彼らを「UMH(未証明変異人間)」と呼び、噂や都市伝説は瞬く間に広まっていった。
目撃した者はほとんどおらず、噂だけが一人歩きして空想上の存在として扱われていた。
2010年10月2日 民間によるUMH機関アウローラの極秘設立
イオラ・ガイリシャという女性と、世界三大企業の一つ〈エイダグループ〉の代表の手により、極秘裏にUMH保護・支援組織〈アウローラ〉が設立された。
その存在は長らく公には語られることはなかったが、着実に機能していった。
以後二十年、UMHたちは彼らの庇護のもと「人間」としての暮らしを守られてきた。
2030年
全世界で確認されたUMHの数は233名。
以後も増加の兆しはなく、新たな出現は一切記録されなかった。
資料映像が淡々《たんたん》と流れる。
雪が降る村を焼く炎、砂漠の実験施設、そして、大企業にまつわる陰謀――。
少女はページをめくるように、事件の記録を追っていった。
すると、少女の手は止まり、冷や汗をかいた。
「これ、どういうこと...」
呟きが会議室に重く落ちた。
そして最後に表示されたのは一枚の報告書。
2035年11月23日 UMH確認数:0
少女は息を止める。
画面の文字は、揺らめく光の中で確かにこう記されていた。
「以上をもって、UMHの《《完全抹消》》を記録する」
時は遡り――2030年、東京。
ピッピッピッ。
スマートフォンのアラームが鳴り響く。
ベッドの上でごそごそと動く黄緑色の髪の少女が、布団の中から手を伸ばしてアラームを止めた。
「ん〜あと5分……ダメ!!」
ガバッと起き上がる。
カレンダーを見ると、赤い丸印がついている。
そこには丸文字でこう書かれていた。
『初デート♡』
「あーヤバい!ついにこの日が来た!」
両手を広げてベッドの上でバタバタとはしゃいだ。
ルンルンと鼻歌を歌いながら洗面所へ。
鏡の前で髪をとかしながら、「どんな服にしよっかな〜」と頬を赤らめる。
お風呂場のドアを開けると、ふわっとミストが広がった。
湯気の向こうで、白い肩が少しだけ見える。
目を閉じてシャワーを浴びながら、頭の中で彼とのイチャイチャを想像していた。
(まずはカフェでの素敵な会話でしょ?それに 映画館での手が重なる私と彼、 景色を見ながら彼の横顔を見るひと時……)
「あ〜もう!好き!」
思わずシャワーヘッドを抱きしめるようにして笑った。
一方その頃――日本・国際空港。
到着ロビーをゆっくりと歩く、水色髪の少年。
「……久しぶりの日本、か」
瞳の奥には、何かを背負うような深い影があった。
静かに呟き、彼は足を踏み出した。
人混みの中へと消えていくその背中は、どこか冷たい風を纏っていた。
そして、運命の歯車は回り始める。
明るい朝の光の下で、笑顔を浮かべる少女と、影を背負う少年。
二人はまだ知らない。
この出会いが世界の運命を大きく変えることになることを――。
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異能に人生を翻弄される若者たちの運命と世界を巻き込む大きな渦を描いた
現代バトル群像劇となっております。
いろんなジャンルを横断しているので、どなたでも楽しめるエンタメになっているので是非ご覧ください。
天童フリィ
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