第8章:小さな訪問者
「お兄ちゃーん!ただいまっ!」
玄関が勢いよく開き、レイさんの静かな部屋に高い声が響いた。
「……静かにしろ、夜だ。」
「夜って言っても、まだ21時でしょ?」
笑いながら荷物を置く少女——彼の妹、ユイさんだった。
大学生になって、久々の訪問らしい。
「急に来すぎだろ。」
「だって、家のご飯飽きたんだもん。レイ兄のご飯が食べたくて。」
「……夕飯、もう終わってる。」
「えー!ひどい!私の分は!?」
「冷蔵庫にある。勝手に温めろ。」
「はーい!」
いつも一人で過ごしている部屋に、人の気配がある。
それはうるさくて、でも少し懐かしくて、嫌じゃなかった。
二人で軽く会話をしながら、夜はあっという間に過ぎていった。
妹が持ってきたお菓子をつまみながら、映画を途中まで見る。
時計を見ると、23時30分。
——ベランダ。いつもなら、あの声が聞こえる時間。
煙草の箱に手を伸ばしかけて、レイさんは少し迷った。
(今日は……まあ、いいか。)
ユイさんはソファであくびをしていた。
「泊まっていい?」
「勝手にしろ。」
そう言って毛布を出し、レイさんは部屋の電気を消した。
壁の向こうの誰かは、もしかしたら今日、少しだけ寂しさを感じているかもしれない。
でもそれは、明日また話せば、すぐに戻る距離だと思えた。