第37話 リーニエ無双
俺たちは扉を開けた。
通りにはびっしりと敵兵士の群れ。
「おー、これは壮観だな」
リーニエは余裕しゃくしゃくだ。
「それではお先に失礼」
そう言い残して、リーニエは敵兵士の群れに突っ込んでいく。
炎の剣をかざして、敵兵士達はリーニエをぐるっと取り囲む。
「プロミネンス、ホールド!」
そう言うと、リーニエは手のひらを頭上に掲げた。
手のひらの上に真っ赤に燃えた火球が姿を現す。
何をするつもりだ?
火球はどんどん大きくなっていく。リーニエの家の屋根くらいまで火球は膨れ上がった。
そして、弾けた。
火球から弾けた火の弾は、敵兵士の炎の剣に吸い込まれるように向かっていく。
あちこちから、炎の剣が音を立てて壊れる音が聞こえた。
「なんて奴だ。炎の剣だけを壊したのか」
何という魔法力。
なんという魔法コントロール。
リーニエの強さをまざまざと見せつけられた。
「お前たち、力の差は歴然だ。去れ!」
リーニエの手のひらには再び火球が現れる。
こいつら敵兵士は無駄な抵抗はしない。一斉に四方八方に逃げ出す。
「ふう~、ただいま戻りました」
手のひらの火球を消し、リーニエが軽い足取りでこちらに戻ってくる。
「お前、俺たちと戦ったときは手加減していたのか?」
俺の言葉に、リーニエはちょっと困ったような顔をした。
「手加減というか……。お前たちとの戦いは私にとって、これからの生きる術を探る戦いでもあったからな。本気の殺し合いではなかったのさ」
……本当によかった。
この戦いっぷりを見せつけられると、とてもリーニエに勝てる気がしない。
倒れた敵兵士たちも、命に別状はなさそうだ。
あれだけの大技を使って、相手を殺さないように調整できるとは。
なんて奴だ。
しかし、リーニエばかりに頼るのもなあ。
俺は神様と精神感応をした。
(おい、神様)
――なんだ。
(システムを混乱させる話はどうなった)
――今やっておる。とりあえず住民には屋内避難指示を出しておいた。これで民間人を巻き添えにすることはないだろう。またジョナン、お主は一回この世から消えた。だから、ガーファシステムからは解放されている。これで思う存分戦えるぞ。
(戦えると言ってもな……。スライムさんはいないし)
俺は足元の水色スライムさんを見た。
お前がアイオンだったらな。
俺たちは街のメインストリートを歩き神殿を目指す。
リーニエが連れてきた水色スライムさんは戦力にならないため、俺の背中に隠しておく。
神殿横の大魔神像が目印だ。大魔神像は街のどこからでもよく見える。
辺りには人影が見当たらない。神様の力で避難指示を出したのが効いているようだ。
辺りを見る。どこかで見た光景。
「アレっ、ここは確か……」
思わず口に出してしまった。
ここは俺とリーニエが激闘を繰り広げた場所じゃないか!
俺はチラッチラッとリーニエの表情を覗う。
リーニエは真っ直ぐに前を向いている。
よかった、気づいていないのか。
気付かれたら気まずいしな。
「生贄の儀式が中断されてジョナンと戦った後……」
うん?
「私は家に閉じこもっていたのだ。最初は儀式がすぐ再開されると思った。だが、すぐに儀式は中止、代わりの生贄は改めて選ぶこととなった」
リーニエを見たが、こちらを向いてはいない。
「私は戸惑った。何をして良いか分からなかった」
リーニエは誰に話すでもなく、語り続ける。
俺もただ前を向いて歩く。
「私の存在とはなんだ? 三日ほど寝ずに考えた。しかし、答えは出なかった。そこで私は答えを見つけようと外へ飛び出したのさ」
えっ、とリーニエを見た。
リーニエは俺の方を向いていた。
「そうだ、ジョナン。お前に会いに行けば、何かしらの答えが見つかる。そう思ったのだ」
「……それがあの戦いだったのか?」
「私は武人だ。ジョナンに会ったら自分の事を話そうと思ったが、結果、戦いになってしまった」
リーニエはうつむきながら話す。
まあ、あの時は俺の言動も良くなかったな。
それきり、リーニエは話さなくなった。
俺もあえて話そうとはしなかった。
「あれは?」
ミルポが前方を指さした。
前方から黒ずくめの集団が整然とこちらに向かって行進してくる。
「ずいぶんと正々堂々と来るじゃないか。しかしあの恰好、見るからに手ごわそうだな」
俺の見る所、あの手の集団は隠密行動する暗殺者であることが多い。黒ずくめの集団は、顔は黒いマスクで隠し、全身黒タイツ、腰は曲がって、だらんと下げている手からは鋭い刃物が突き出ている。
「あいつら人間だよな」
その佇まいから、人間というより獰猛な四足動物を思い起こさせる。
「あの黒タイツ、人間だが相当訓練されている。手強いぞ」
リーニエがつぶやいた。
黒ずくめより黒タイツの方が、奴らの呼び名にぴったりだ。
黒タイツは俺たちの前方5mくらいの場所で停止した。そして散開すると、俺たちをぐるりと囲んだ。その中の一人が、こちらに向かって進み出る。
「リーニエ様」
黒タイツが声を発した。意外に若々しい男の声だ。
「リーニエ様は、なぜそいつらの味方をされるのですか。あなた程の方が一体なぜ」
その問いに対して、リーニエが答えた。
「自由だ」
「自由? あなたは名門貴族の生まれ。ガーファシステムのカラクリもご存知のはず。そのあなたが自由とは。これは驚いた」
「確かに人は管理するものだと、私は教えられた。私自身も最強の戦士になって生贄の儀式を迎える、そのためだけに生きてきた。それが全てだった。だが生贄の儀式を潰され、私は初めて自分の生きる意味を考えた。それは定められた運命を受け入れてきた私にとって、苦痛だった。戸惑った。ある男を追いかけ、意味もなく戦いもした。そして……」
リーニエは俺を見た。
「そして、見つけたのさ。自分の意志に従って、自由に生きていいのだと」
リーニエ、お前、そんなに悩んでいたのか。色々言ってしまって正直悪かった。
黒タイツは肩を震わせている。
「リーニエ様、残念です。ここでお別れです」
黒タイツは拳から出ている爪を振りかざし、リーニエに飛びかかる。
「危ない!」
俺は思わず叫ぶ。
だがリーニエは微動だにせず、黒タイツの爪を左手で、黒タイツの顔面を右手でつかみその動きを押し留める。
そして、手を離すと右パンチを黒タイツの顔面に放った。
打撃音と共に黒タイツが吹っ飛ばされる。
「お別れとは、こちらも残念だ」
リーニエは顔色を変えずに、そう言い放った。
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