第35話 あの世?
(ところで、このごま塩コンビたちの登場場面はどうやって俺に見せているんだ?)
――これはスライムたちが見た映像だ。スライムが見たものは全てワシが管理することができる。
(なに、そうなのか。じゃあスライムさんを通じて、ごま塩コンビにガーファの情報を教えてあげないといけないな)
――そうだな……。まあ考えておこう。
(なんだ、えらいやる気がないな)
――ほら、違う場面を映すぞ。
エスティが机の上に魔導書をおき勉強している。だが疲れているのか、うつらうつらとしている。
――ごま塩コンビはお主が死んだ後、何日か自由都市シントに留まっていたらしいな。この間、エスティはずっと部屋にこもって調べ物をしていたようだ。
あの落ちこぼれと自分で言っていたエスティが、ここまで勉強するとは。
画面の中のエスティは、うつらうつらしながら、だんだんと頭が机に近づいていく。
(このままでは、頭が机にぶつかるな)
そう思っていたら、やっぱり……。
エスティは激しく頭を机にぶつけた。その衝撃で目が覚めたエスティは、痛む額を手で押さえながらまた勉強に戻っていく。
辺りは明るくなってきた。夜通し勉強していたのだろうか。
(こんな勉強方法は身体に良くない。エスティに物申したいぜ)
突然、エスティは机を叩いて立ち上がった。その顔は何か新しい発見をした顔だった。
エスティは宿を飛び出し広場に出ると、いきなり魔法陣を描き出す。
周りの人々は不審そうにエスティを見る。
それに構わず、エスティは一心不乱に魔法陣を描いている。
すると魔法陣が光だし、魔法陣の上に精霊が姿を現した。
(何の精霊だ、あれは?)
――さあ、ワシに聞かれても。
(このヘッポコ神!)
エスティは精霊に何かを尋ねている。その表情はどこか鬼気迫るものがあった。
(おい、エスティは何て言っているんだ)
――音声はない。現在のところ、画像のみだ。近々アップデートする予定だ。
(神〜、ホントに使えない奴だ)
俺は画面に目を移す。
エスティの訴えが通じたのか、精霊は微笑みながら言葉を示す。
もちろん、なんと言ったのか俺には分からない。が、精霊の言葉を聞いてエスティはその場で泣きじゃくった。
(おいおい神様、どうなっているんだ)
神様は無言だ。
エスティ、何か悲しいことでもあったのか……。
泣いているエスティを遠巻きに囲んでいた群衆の間から、敵兵士たちが現れた。
(あーエスティが捕まる。神様何とかしろ)
――これは過去の映像だ。ワシには何もできない。
エスティはあっさり敵兵士たちに捕まってしまった。
(くそっ、どうすればいいんだ)
――まあまあ、そう焦るな。それでは続きをどうぞ。
ここは牢屋か? 独房のようなところで、エスティは捕えられている。
画面の中のエスティは静かにそこに座っている。しかしその顔には絶望の色はない。確かな強い意志が感じられた。
エスティは何か決意を固めたのか……。
――次行くぞ。
神様は画面を切り替える。
そこには、街で色々と聞き込みをしている踊り子さんたちの姿が映し出されている。
おそらくエスティの居場所を探しているんじゃなかろうか。踊り子さん達は、敵兵士たちにも聞いている。
(踊り子さん達、なかなか大胆だな。情報収集はお手の物って感じだ)
――各都市を渡り歩いてきたのだ。情報が一番大事だからな。
画面は、踊り子さんの話に夢中になっている敵兵士を映している。その後ろから子どもが近づき、さっとその鍵を取っていく。
敵兵士は気付いていない。
(おい、あれはどこの子どもだ)
――そんな事知るか。
(もうお前には聞かん!)
踊り子さんの中に子どもがいたような……。その子ならいいが。
画面は再び、エスティの独房に戻る。
敵兵士が一人やってくる。
敵兵士が牢屋をガチャッと開け、エスティに「ここから出ろ」と促している。
エスティはそれに従い牢屋を出る。
場面代わり、エスティはとある建物の前にいる。その建物の前には敵兵士がいる。敵兵士が扉を開けると、エスティは中に入った。
そこは粗末な部屋だった。でも、掃除が行き届いている清潔な部屋だった。壁には女物の服がかけられている。
(これは女性の部屋か? かなりそっけないが)
エスティはベッドの人物に駆け寄る。
誰が寝てるんだ? 映像が下から写されていて、ベッドに誰が寝ているのか分からない。
俺の手が温かくなった。それから身体全体が温かくなるのを感じた。
(おい、これって。おい、スライムさんをジャンプさせろ)
だが神様は言うことを聞いてくれない。相変わらず、エスティが手を握っている人物は誰だか分からない。
(だからジャンプさせろって!)
くそっ、神様の奴、俺をからかいやがって。とんでもなく底意地の悪い神様だ。
俺は死んでいない!
だんだんと、俺の意識は遠くなっていった。
俺はうっすらと目を開けた。汚い天井が見える。どこかで見たような光景だ。頭がまだぼんやりする。
だが、手のひらの温もりが、確かに生きていると教えてくれる。
「よかった……」
エスティと目があった。やはり俺の手を握っていたのは、エスティだった。
エスティは、俺の手を握っているのに気づき、慌てて手を離した。
「よかった、本当に良かった……」
泣きじゃくるエスティ。
こんなとき、常識人としてはなんて言葉をかけていいのだろう。
「エスティ、お前……ヒドイ顔しているな」
俺はエスティの顔を見て、笑った。
「ジョナンさんこそ、笑顔が怖いですよ」
エスティがぐしゃぐしゃの顔のまま、ニッコリと笑った。
「ハハハ、泣いたカラスがもう笑った」
「何ですか、それ。私はカラスじゃありません」
エスティは、今度は怒った顔を見せた。
その顔を見て、俺はまた笑った。
Copyright © 2024 Awo Aoyagi All Rights Reserved.
この作品を面白いと思われた方、応援したいと思われた方は、
「ブックマーク」と、「評価」をぜひぜひお願いいたします。
アオアヲさんのモチベーション維持のために、必要な栄養分になりますので。
あなたにとって、この作品が日々の活力になれば幸いです。




