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第24話 ミルポとイケニエ女

 なんだいエスティのやつ。


 ぶらぶらと一人、街の中を歩く。



 おっちゃんに会ってから、エスティは変わっちゃったな。前よりも前向きになった。


 うちと初めて会った時は、あんなに落ち込んでいたのに。



 巨人族の村が襲われたあと、ヨーコ姉ちゃんに助けられた。ヨーコ姉ちゃんは忙しい人で、家にはいつもいなかった。うちはいつも独りぼっちだった。だけど同じ独りぼっちのエスティを見て、そしてうちよりも激しく心を傷つけているエスティを見て、うちは逆に救われた。



 守る者ができた。エスティを守る。


 それだけで、寂しさ、せつなさ、それが紛れるような気がした。


 うちと一緒にいた時、エスティは後ろ向きなことばかり言っていたような気がする。



 それがおっちゃんに会って、前向きに変わった。


 よくよく考えれば、喜ばしいことなんだけど。


 だけど素直に喜べない自分がいた。



 街は自由都市というだけあって、様々な人たちでごった返していた。


 肌の白い人、黒い人、黄色い人。


 うちは座り込んで、人の波をただ眺めていた。



 巨人族はいない、か。



 いつのまにか巨人族を捜していた。


 巨人族の大人は普通の人より大柄だ。昔は二倍から三倍の大きさだったと言うけど、呪いのせいでこのサイズらしい。


 巨人族の子供は、普通の人間の子供と同じくらいの身長体重だ。


 でも巨人族である自分が見れば、普通の人間か巨人族かの違いは一目で分かる。



 やはりいない、よね。



 巨人族の生き残りは、やっぱりうちだけ。その思いが急に胸に詰まり、悲しくなってきた。



「うん? なんだ?」


 人混みの中に怪しげに動いている、怪しげな人が見えた。店先に立って何も買わない。テーブルの下や店の奥を覗いている。



 やることがないので、その怪しいやつをジッと見る。



 そいつは通りに出れば道端のゴミをあさり、ゴミをひっくり返しては、また戻している。



 怪しい……。



 どこの街にも乞食(こじき)浮浪者(ふろうしゃ)はいるもんだ。そう思ったけど、その怪しいやつの横顔に見覚えがあった。



 おっちゃんじゃないか!



 確かにおっちゃんだ。よくよく見れば、ボロのフードとマントを身に着けてるだけで、顔にはなにもしていない。



 でも、あんな所にスライムさんがいるのかな?


 (あき)れながら見ていると、


「あっ」



 地味な服なのに……。



 明らかに違う。


 別格。


 オーラがある。



 リーニエ姉ちゃんが向こうから歩いてくる。



 このままじゃ、おっちゃんが見つかる。


 いくらおっちゃんにオーラがなく目立たない存在だとしても、リーニエ姉ちゃんならきっと見つけるに決まっている。



 なんとかしないと。



 二人の距離はどんどん縮まって来ている。



 うちは歩き出した。怖いけど、リーニエ姉ちゃんの方にだ。


 リーニエ姉ちゃんと目があった。



 いいぞ。おっちゃんの存在に気づかれないように、その場を離れる。



 できるだけおっちゃんから離れないと。


 だんだんと人気(ひとけ)のない道に、そして路地裏に入っていく。



「ミルポ」


 リーニエ姉ちゃんから声をかけられた。


 うちは振り返る。


 そこに立っているのはリーニエ姉ちゃんだけ。おっちゃんの姿はない。



「やはりこの街にいたのか。ジョナンから出ている信号が途絶えたので心配していたのだ」


「心配? うちの?」


「そうだ。お前とエスティをこの戦いに巻き込んでしまったことを悪いと思っている。だから何とかしたかったのだ。ミルポ、まだジョナンに付いていくのか?」


「おっちゃんに義理があるわけじゃない。ただ、おっちゃんのスライムさんを助けたいだけなんだ」


「あのスライムさんか。確か魔神の所に捕らえられていたな。だが、今はどうしているか」


「もしかして、もう殺されちゃったってこと」


「それは分からない」



 リーニエ姉ちゃんは首を横に振った。



「ジョナンは神殿を壊した指名手配犯だからな」


「じゃあ、そんな極悪人のおっちゃんを追ってきたんだ」


 

 うちの言葉を聞いて、リーニエ姉ちゃんは寂しげに笑った。



「私は追手でも何でもない。あの日、生贄(いけにえ)の儀式の日、私の人生は終わるはずだった。しかしジョナンが神殿に乱入して、生贄の儀式は中止。私はこのように(みじ)めに生き残った」



 こんなキレイでカッコいい人が、自分のことをみじめだなんて。



「私は生贄の儀式でもうこの世からいなくなった。だから私という人間は、もう存在していない」


「でもリーニエ姉ちゃんは生きている」


「フッ、ただ息をしているってだけだ」



 確かにリーニエ姉ちゃんはさみしげだ。



「私はお前たちと一緒に暮らすという希望を、まだ捨ててはいない。すぐに返答はできないだろうが待っているぞ。さあ、ここは人通りもない裏通りだ。良からぬことを企む者たちもいるだろう。私が宿まで送っていこう」


 この申し出にどう反応していいかわからない。



 うちは黙っていた。



「ハハハ、そうだな。ミルポを送っていくと、ジョナンと鉢合(はちあ)わせになってしまうな」


 そう言うとリーニエ姉ちゃんはその場から去ろうとした。



「あっ」



 リーニエ姉ちゃんの向かう先に、浮浪者が一人ゴミをあさっている。



 もしかしておっちゃんか?



 そう思ったけどリーニエ姉ちゃんはその浮浪者を見もせずに、スタスタと行ってしまった。



 気づかない? リーニエ姉ちゃんが気づかないんだったら、おっちゃんじゃなかったか。



 一安心。


 気がつくと浮浪者はいなくなっていた。



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