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酒豪
「おい、この席酒がまだ来てないぞ!!」
少しハスキーだがよく通る声が、狭く騒がしい酒場に響く。
「はい、只今!」
ウェイトレスの青年が人の間を縫って、声がした席を探す。
しかし、そこには若い女が一人腕を組んで座っているだけだった。長い黒髪に透けたような蒼い目。服は白シャツにページュのパンツという、ボーイッシュな格好。
一瞬見ただけでは男がと間違えそうになるが、顔は美しい女性そのものだった。
「え?…え!?」
青年はまさかこの女性が声の主だと思えなかった。
「酒おせーよ、いつまで待たせんだっての。あと10杯持ってこいアホが」
薄くピンクに色づいた可愛らしい唇から、ドスの効いた声が発せられる。
「す、す、すみません!」
見た目とのギャップに呆気にとられていた青年は、急いでテーブルにジョッキを置く。中性的なその女性は青年を凝視したが、すぐ興味を無くしたようにジョッキに手をかけた。
(綺麗な人だ…)
青年は見とれていたが、蒼い瞳にじろりと睨まれて逃げるように立ち去った。