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真面目ホラー

マグニの肖像

作者: 七宝

これらの話は、あなたに特定の影響を及ぼすものではありません。


また、最後まで読んだとして、あなたにとって有意義な時間にはなりません。


でも読みましょう。

短い短い、手軽なお話です。

大学の友人2人と肝試しに行ったんです。2人とも免許を持っていなかったので、俺が運転係でした。


場所は×県にある有名なトンネルでした。けっこう出るっていうクチコミがあったんで3人ともワクワクしながら向かったんですけど、まぁ普通のトンネルでしたね。


山道は所々街灯がついてるし、トンネルは明るいし、「こんなとこに幽霊が出るわけないな」って思っちゃうくらい何もなさそうなところだったんです。


でも来た以上は肝試ししないと帰れないよなってことになって、トンネルの手前に車を置いてみんなで歩きました。

トンネルは400mくらいで、ちょうど肝試しには手頃な長さでした。


でまぁ、変な物音や声を聞くこともなく、ものの数分で反対側に出て、「クチコミもあてになんないな」なんて会話をしながら来た道を戻り始めました。


壁に地元の不良や肝試しに来た若者が描いたであろう落書きがたくさんあったので、それを見ながらみんなで笑いながら歩きました。


そんな中、友人の1人が俺たちに向かって「しーっ!」のジェスチャーをして、小声で言いました。


「なんか聞こえないか?」


すると、入口の方から女性の声のようなものが聞こえてきたんです。


「アッハッハッハッハッ」


その声の主は笑っていました。


「俺らと同じような肝試しグループじゃね? 若そうだし、もし可愛かったらお持ち帰りしちまうか?」


もう1人の友人が冗談めいた口調で言いました。

このまま戻れば途中で顔を合わせることになるでしょうからね。


少し歩くと、入口の方に人影が見えました。ちょうど俺たちの車のあたりに立っています。


「おい、あの女おかしくないか?」


友人が言いました。そうです、おかしいのです。この女性、さっきからずっと笑っているんです。しかも、見た感じ1人で、周りに誰かがいる様子もありません。


「なぁ、どうする?」


「どうするってなんだよ。ナンパするどうか迷ってんのか?」


「なわけねぇだろ。あいつ車の隣にいるけど、このまま戻るのかって聞いてんだよ。正直俺は関わりたくねぇ」


確かに彼の言う通り、おかしな女性が車の隣に立っているところに歩いていくのは怖いです。


「そのうちどっか行くんじゃないか?」


もう1人の友人がそう言いました。


「そうだな、もし向こうまで行って離れてくれなかったらその時はまた考えよう」


俺も同調しました。


それから少し近づいてみて分かったのですが、女性はかなり大きな声で笑っていました。顔がよく見える距離ではなかったのですが、口を大きく開けていることだけは遠くからでも分かりました。大口を開けて笑ってるんです。


「気味が悪いな⋯⋯」


俺がそう漏らすと、友人も「そうだな」と返しました。


そんな感じで車に戻るのを躊躇していたら、いきなり女性がこっちに向かって走り出したんです。

なにかを叫びながら走ってくるんですよ、さっきと変わらない満面の笑みを浮かべながら。


俺たちもうパニックになっちゃって、全員腰を抜かしてその場に尻もちついちゃって、ここだけの話、少しチビりました。多分あいつらもチビってたと思います。


その間にも女性は走ってきてて、目の前まで来たかと思ったらまた大声でなにかを叫んで、いきなり舌を噛み切ってその場に倒れました。


ちぎれた舌を見たのは初めてだったので恐怖でおかしくなりそうだったんですけど、もう「今しかない!」と思って、力を振り絞って立ち上がって、みんなで車に戻りました。


通報ですか? しませんでした。というか、それどころじゃなかったんです。その時は早くここから離れないとっていうのばかり頭にあって。


もう肝試しは懲り懲りですね。人間の方が幽霊なんかよりよっぽど怖いです。とにかくそれだけですね。



最初にかかってきたのが非通知でした。その時は相手が女性だとは分かりませんでした。だって、喋らずにずっと電話口で変な音を出してるだけでしたもん。


なんかこう、生肉にタレを揉み込んでる音というか、クチャクチャって感じの音でした。舌で口の中をクチュクチュやってる音にも似てた気がします。


気持ち悪いですよね、ほんと。


次の日もまた非通知からかかってきました。出るかどうか迷ったんですけど、もし大事な用とかだったら困るので出てみたんです。


そしたら小さな声で「殺される」「殺される」「殺される」って何回も呟いてて。こっちが話しかけてもなにも反応がないんで、「あ、こりゃいたずら電話だな」って思ったんです。


電話は次の日も、また次の日もかかってきて、その度に内容が変わっていました。気持ちの悪い内容というのは変わらないんですけどね。


本当は出たくなかったんですけど、電話がかかってくるとなぜか「出なきゃ」って思っちゃうんです。なんなんでしょうね、これ。


途中から公衆電話って表示になったんですけど、内容は変わらずでした。


何かが折れるような音を聞かされたり、「愛してる」「愛してる」って何度も言われたり、日によっては「アッハッハッハッハッ」なんて大笑いしてることもあって。とにかく気持ちが悪いんです。

昨日は受話器を舐めているような音でした。



今日は特に気分が悪くて、朝から5回も吐いてるんですよ。

僕は霊感がないので、というか霊自体信じていないので、そういうのはないと思ってるんですけど、やっぱりここまでなるのは何かあるんじゃないかって、少しだけ思い始めたんです。


でも今日あなたと会って分かりました。


あれって、去年殺した彼女だったんだなって。

最後まで読んでくれたんですね。

有意義な時間は過ごせましたか?

そんなわけ、ないですよね。

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― 新着の感想 ―
[一言]  ひとを殺すと化けて出られることがあるからやめておいたほうがいいと、教訓をいただきました。  みんな、ためになったよね?
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