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少女は世界を変える

【短編】それってあなたの感想ですよね 

『妖精騎士の物語』に登場するギュイエ公女カトリナが、トレノの王宮で男爵令嬢に言いがかりをつけられるお話です。異世界恋愛のヒロインのセリフを読みながら、『それってあなたの感想ですよね』という迷言をふと思い書いてしまいました。



「殿下、怖いですぅ。カトリナ様がわたしを睨んでいますぅ」


 トレノの王宮には、様々な貴族が訪れる場所がある。サボア大公には、ギュイエ公爵家の公女カトリナ殿下が嫁ぐことが決まっており、公女カトリナはトレノに仮宮を定められ既に滞在中なのだ。


 そして、二日に一度程度、トレノの王宮に足を運び、婚約者である大公の元を訪れる。


 時折、サボアの貴族令嬢と大公が話をしている時に出くわす事がある。勿論、二人きりでも密室でもないのだが、王宮の通路を移動中に話しかけられたりすると、サボア大公は、つい話を聞いてしまうのである。


 側近が盆暗であるということも差し引いて、年の離れた祖父ほどの父を持った大公は、大山脈西側の『シャベリ』の宮城で育っており、大山脈東側のトレノの王宮に移ったのは近年のこと。元々二つの伯爵家が婚姻により結びつき『辺境伯』『公爵』へとなったことに加え、聖王国の王位継承権を持つ王女を妻とした公爵以降、『大公』となったのである。


 とはいえ、トレノ近郊の貴族とは側近ともどもかかわりが薄い。聖エゼル騎士団を整備し、トレノの貴族子女との関係を通し、関係を密にしている最中でもある。未来の大公妃であるカトリナに仮宮を与えてまでも早々にトレノ入りさせたことも、トレノ貴族との関係を深める為でもあるのだ。


「大公殿下、このような場所で立ち話をされるのは、いかがなものかとおもいます」

「そうだな、カトリナの言う通りではある。だが、この……『ベアトリーチェですわ殿下』……チェンチ男爵令嬢から、聖エゼルについて相談を受けてな」

「……左様で」


 聖エゼル騎士団は、女子修道士である魔力持ちの貴族子女を『聖騎士』と定めたサボア公国の聖騎士団である。その昔、大公家出身の教皇猊下が設立した聖騎士団をサボアが引き取り休眠状態であったものを当代において『女子修道騎士団』として再興したものだ。


 騎士団長は伯爵家の出身であるが、男爵令嬢も何人か所属している。婚姻が難しく修道女になるのであれば、聖エゼルで活動したいという子女がいないではないだろう。


「しかしな。率直に聞こう、カミラ」

「なにがでしょうか」

「私は……睨んでいるように見えるのだろうか」


 カトリナは迫力美人系である。スタイルも良く、砕けた話し方をする事も少なくない。王国では「近衛騎士」として王妃殿下に近侍し、また、騎士学校時代には『ミアン事変』でアンデッドの大軍と闘う経験をしている。『リリアル男爵』とともに、ラ・マンの悪竜討伐を行い、「竜殺しの大公女」と呼ばれる事もある。


 切れ長の目に男性に比するほどの長身、鍛えられた肉体に魔力量も多く、無意識に威圧を放っているように見られることも少なくない。敵対する者には恐怖を、味方には信頼と安心を与える。境目の領地であるサボアの大公妃に相応しい血筋と実績を有していると言える。


「殿下の目力は強うございますのでそう受け取るかも知れませんが、……チェンチ男爵令嬢、それってあなたの感想ですよね」


 男爵令嬢に問いただすような視線を向け、カトリナの侍女であり側近でもある子爵令嬢カミラが言いはなつ。


「感想か」

「はい。後ろ暗い心がある故にそう見えるのでしょう。何か睨まれる理由があるのではないかと思われます」

「ふむ。確かに、市中を見回っていても目を逸らしたりするものは、何かしら後ろ暗いことがあったな。だそうだ、男爵令嬢」

「ひどいぃ!! 私が身分が低いからって、そんな言い方ないと思います!!」


 大公女であり、未来のサボア公妃であるカトリナに、親が死ねば男爵令嬢の身分さえ失うただの若い女が言い放つ方が余程無礼だ。


 貴族の男児は親が死んでも貴族・騎士の身分を維持できるが、女性はそうではない。親が健在なうちに身の振り方を考えることも貴族の娘には大切な事だ。


「男爵の身分は別に低くないしな」

「え」


 ベアトリーチェはその物言いに驚く。男爵は下位貴族ではないのだろうかと。


「法国も王国も帝国も、爵位持ちは数が限られている貴族の内でもほんの一握りだ。今は、ちょっと納税額が多ければ『騎士』の身分を持つ都市住民は少なくない。だが、男爵となれば相応の領地を持つか、都市を代表する大身の商人か地主だな」


 サボアや王国において、騎士以上の『貴族』身分の割合は百人に一人程度。さらに、爵位持ちはその百分の一程度だろうか。


「そもそも、男爵とは王や公に仕える戦士長。都市を有する領地を運営する『伯』が王公の領地の一部を委ねられているのに対して、男爵は、王の直臣の軍を率いる長であるから、役割が違うだけで、伯爵が上で男爵が下というわけでもない」


 王と公の違いは、領地の広さと教皇に認められるか否かの問題であり、王より広い領地を持つ公や伯もその昔は存在した。婚姻により領地が広がった結果でもある。


 貴族の「序列」というのは、爵位だけではなく、どのように仕える王や国に貢献したかで評価される。無能な伯爵より、有能な男爵のほうが序列が上であるということはあり得る。


 男爵は王や公の直臣で騎士や兵士を軍として取りまとめる役割りを務める。自身の戦力は少ないが、王の軍の実戦指揮官なので、別に身分が低いわけではない。男爵で元帥と言うものも存在するが、手柄を立てれば大概小領地の『公爵』に陞爵するのだが。


 勿論、伯爵が任じた男爵というのもいないわけではない。その場合、王の任じた男爵と陪臣の男爵では立場は異なる。


「殿下、私は睨んでいるように見えますでしょうか」

「いや、涼しげで美しいと思うよ私は」

「ふむ、ならば問題ないな。それに、私が大公女なのも、そちらが男爵令嬢なのも生まれの差だから仕方がない。私は特に気にならないが、思うところのある者にとっては、何かしら言いがかりを与えることなるかも知れんな」


 カラカラと笑うカトリナ。


「大公妃になれば、このような目力も生かせるだろうさ」

「左様でございます」

「いまだ、帝国と背後で繋がっている者も少なくないからな。そういえば……」


 サボア大公は、チェンチ男爵がミランと取引のある商会に関係する貴族であることを思い出す。トレノの貴族の中で、明らかに帝国に組していた者は排除されたのだが、今までの付き合いや取引からして、帝国領と全く関わらないというわけにはいかないことも大公は理解している。


「な、なんですかぁ」

「あなたの主観を周りに吹聴して、あたかも事実であるかのように発信するのは止めてもらえますか?」

「はあぁ! なんでよ」

「……反逆罪か外患誘致罪で処刑されたいのですか?」


 大公の婚約者であり、王国の王族である公女殿下に言いがかりをつけ内乱を起こすに似た行為自体が「反逆罪」にあたるだろう。また、サボア大公家の評価を棄損するような発言を繰り返すのは、帝国を引き入れる為の「外患誘致罪」と見做されるだろう。


 サボア大公領と王国を繋げるための婚姻に対して、否定的な心証を与える噂を流すのは「風説の流布」にあたると判断されてもおかしくはない。


 暗殺や未婚の王族の凌辱、内乱を起こしたり敵を支援するなど明白な利敵行為とは言えないが、「いや、利敵行為だから」で対応できないわけではない。贋金作りや官吏・裁判官の殺害も「反逆罪』と見做されるので注意が必要だ。誰だよ。


「処刑か」

「反逆罪も外患誘致罪も国を危険にさらす所業ですので、量刑は死刑のみとなります」


 貴族の身分を剥奪された後、拷問による尋問を受け、処刑は斬首ではなく時間をかけて死に至らしめる凌遅刑となるだろうか。


「あまり宜しくないな」

「ですが、売国奴には当然かと」

「……た、大公殿下ぁ……」


 大公殿下はニッコリとほほ笑む。一瞬安心する ベアトリーチェだが大公は衛士を呼び、ベアトリーチェを貴族牢に収監せよと伝える。


「な、なんでですかぁ!!」

「反逆罪で死刑の所、私たちの婚姻の際の恩赦で罪一等を減じて修道院へ移送とする。これなら、君の希望を叶えることにもなるし、不敬を処罰した事にもなる。どうだろうか」

「ど、どうだろうかじゃないわよぉ!!」


 大声を上げながら衛士に連れ去られるベアトリーチェ。カトリナとカミラは「良い判断です」と頷く。


 ベアトリーチェは知らなかったようだが、サボア公の後見人である先のニース辺境伯とカトリナは「師弟」の関係であり、カトリナの腕前に勝るサボアの騎士はいないと言っても過言ではない。


 聖エゼル騎士団の『総長』を将来的には務めたいと思うカトリナであるが、出産育児を終えてからでなければ駄目だと周囲からは諫められているのだ。




【作者からのお願い】

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[一言] あらすじと前書きにある『妖精式の物語』は、妖精騎士なのでは?
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