1.ヒーロー登場
地球。
東京の街では、怪獣が暴れ、破壊のかぎりを尽くしていた。
もちろん、映画や特撮ドラマの放映ではない。
今。
ここで。
現実に起こっていることなのだ。
人々はこの災害に、戸惑っていた。
テレビや映画では、怪獣が現れると、ウルトラマンやジャンボーグ、或いはアイアンキングなどが現れて怪獣を倒して終わるが、ここは現実世界だ。そんなヒーローのようなものは一切存在しないのである。
助けてウルトラマン、などと叫んだところで、ウルトラマンは絶対に来やしない。
駆けつけた空自の戦闘機も、あっという間に叩き落とされてしまっていた。
(くそ、この世の中に怪獣が存在するなんて!)
空自のパイロットの坂上 朋也は、戦闘機で怪獣の周りを旋回しながら様子を見ている。
(ウルトラマンがいれば……!)
怪獣の攻撃が朋也の戦闘機にクリーンヒットする。
「うわああああ!」
錐揉み状に落下を始める戦闘機。
朋也は脱出装置を操作するが。
(壊れてる!?)
朋也の脳裏に、恋人の姿が浮かぶ。
(美咲さん、ごめん。俺、帰れそうもない)
朋也は死を覚悟し、墜落のその時を待った。
しかし。
朋也は戦闘機ごと暖かい光に包まれ、周囲の時間が止まった。
「……?」
朋也の前にカブトムシに似たような姿をした赤い巨人が現れる。
「誰だ?」
巨人は聞いたこともない言語で、「私はカブトムシ座から来た宇宙人だ」と、答えるが、朋也はなぜかそれを理解することができたのである。
「ウルトラマン……なのか?」
「違う。私は惑星インセクトのカブトだ」
彼は宇宙警察隊の隊員で、地球に怪獣が紛れ込んだことを察知して、急ぎやってきたという。
「君を生きながらえさせる代わりに、君の体を貸してほしい。あの生物は私が倒そう」
「俺の意識はどうなる?」
「同化するはずだ」
「お、俺の意識が消えたら怖いけど、どのみちやらないと俺は死ぬし、あの怪獣も倒せないんだよな?」
「その通りだ」
「頼む」
カブトと朋也の体が重なると、包み込んでいた光が消え、赤い巨人の彼が現出して時間が動き出した。
「うが?」
怪獣が疑問符を浮かべる。
カブトは怪獣目がけて駆けると、拳を乱打した。
パンチを連打された怪獣はよろめき後退した。
怪獣は体勢を整え、カブトに接近する。
カブトは怪獣の攻撃を回避し、反撃の鉄槌を浴びせた。
前方に倒れ込む怪獣。
「ぎいいいいああああおおおお!」
起き上がった怪獣が振り返り、咆哮すると共に火球を放った。
カブトは腕をクロスすると、必殺の光線を放ち、火球を押し返して怪獣を粉砕すると、空の彼方へと飛び立った。