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90.森の終わり


 魔狼王との戦い。謎の幼女の加入という予想外の事態は起こったものの、カイムらの進むべき道は変わらない。

『リュカオンの森』の深層をひたすらに進んでいく。


「闘鬼神流――【青龍】!」


「オオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 三メートルほどの体長がある巨人を圧縮魔力の刃で斬り裂いた。

 ギガント・ピテクスという魔物の巨体が真っ二つになり、地面に倒れて動かなくなる。

 魔狼王との激闘を制したカイムであったが、それからも深層の魔物に襲われ続けた。

 見上げるほどの大きさの虎。

 数十本の触手を振りかざした人喰い植物。

 地面から突如として現れる巨大ミミズ。

 人間の頭部ほどの大きさの蠅の群れ。

 二つの首を有した猛毒の大蛇。

 数えきれない戦いが襲いかかってくるが、森の主である魔狼王すら倒すことができたカイムにとっては苦戦するほどではない。

 仲間を守りながら魔物を倒していき、深層を奥へ奥へと進んでいく。


「も、もうすぐ深層を越えられるでしゅ……す、すごい速さでふ……」


 戦いを終えて休憩中。ロータスが恐々とした口調で言った。

 案内人として日常的に『リュカオンの森』に足を踏み入れているロータスであったが、彼女は危険を避け、隠れて遠回りしながら森を抜けている。

 戦いを避けることなく直線で進んでいくカイムらは、本来の行程を半分近くまで減らして進むことができていた。


「こ、この調子なら今日中に深層を抜けられるでしゅ……。森を抜けるのにも、何日もかからにゃいかと……」


「ん……」


 噛み噛みの口調のロータスであったが、彼女はリュカオンから託された幼女――『リコス』と手をつないでいる。

 年齢の近い者同士、あるいは森をホームグラウンドにしている者同士、シンパシーでも芽生えているのだろうか?

 子守も兼ねて、ロータスにリコスの面倒を任せていた。


「無事に抜けられそうで何よりだ。帝都にも早めに到着できそうだな」


「はい……私もそろそろ、覚悟を決めなくてはいけませんね」


 カイムの言葉に、ミリーシアが表情を引き締めた。

 二人の兄の争いに困惑していたミリーシアであったが、旅の道中に覚悟を決めたらしい。瞳に迷いは浮かんでいない。


「私は兄と話をします。出来ることなら争いを止めたいですが、それが無理ならばランス兄様に味方をするつもりです」


「へえ、自分が王になろうという発想はないんだな? 意外とお似合いだと思うんだが?」


「冗談はよしてください、カイムさん。私のような若輩の娘に帝国の皇帝は務まりませんよ」


 ミリーシアが苦笑する。

 二十年も生きていない娘が国の頂点に立とうなど、認めない人間の方が多いだろう。

 認める人間がいるとすれば、ミリーシアを傀儡に仕立てて利用しようとするものだけか。


「俺はランスとやらのことは知らないが……ミリーシアがそう決めたのであれば文句はない。手助けはしてやるから好きなようにしろよ」


「はい、これからも頼りにさせていただきますわ」


 ミリーシアが花がほころぶような微笑みを浮かべた。

 透明感のある美しい双眸からは、カイムに対する信頼と恋慕の思いが伝わってくる。


「…………」


 カイムが引き寄せられるようにミリーシアの頬に手を伸ばす。

 ミリーシアもまた拒むことなく受け入れ、自分の頬に添えられたカイムの手に心地良さそうに相貌を緩める。


「ん……」


「ム……?」


 良い雰囲気になっているカイムとミリーシアの様子を見て、何故かリコスが頬を膨らませてカイムの頬をつねる。

 半眼になっているリコス。もしかして……嫉妬しているとでも言うのだろうか?


「あー……何を考えているんだろうな、コイツは」


「『女の子』ということじゃないですか? 女は生まれた時から女ですよ」


「……意味が分からんな。、まったく、手間のかかる子供だ」


 カイムはミリーシアの頬に添えた手を離し、リコスのことを抱き上げた。

 カイムの肩に乗せられたリコスは無表情であったが、両手を挙げてブンブンと振っている。おそらく、喜びの意思表示なのだろう。

 その後、大きなアクシデントに見舞われることなく深層を抜けることに成功した。

 深層を抜ければ再び中層、浅層を経て、森を帝都側へと抜けることができる。


 帝都への道のりもあとわずか。

『ガーネット帝国』という巨大な舞台で繰り広げられる、空前絶後の兄妹喧嘩の開幕が刻一刻と近づいていたのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 或いはママ(リュカオン)がいながら他の女に夢中になってるパパに対して怒ってますポーズなのかも(笑) 野生動物と同様の生き方していたのだとしたら、群れの中での序列で自分の方が他の女よりも上だ…
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