74.魂の騎士
「現れろ、地獄の鎖につながれし忠実なる下僕よ! 召喚――【魂の騎士】!」
リビングデッドの青年――ヴェンハーレンが右手を振る。
すると、その周囲に浮かんでいた青白い鬼火が形状を変えて人型になった。
現れたのは漆黒の全身鎧を身にまとった騎士。兜で顔は見ることができないが……身体の関節部分では鬼火が燃えており、身も凍えるような雰囲気は生者のものとはかけ離れている。
『『『『『オオオオオオオオオオオオオオオッ……』』』』』
鬼火をまとった全身鎧の騎士が、地の底から響くような低いうなり声を上げる。
現れた騎士の人数は五体ほど。それぞれが剣や槍、盾などで武装していた。
敵意を剥き出しにして近づいてくる不死の騎士の姿に、ミリーシアが叫んだ。
「ソウル・ナイト……『子爵級』のアンデッドです! 皆さん、気をつけてください!」
「承知!」
ミリーシアの声に応えて、カイムが正面にいたソウル・ナイトを殴りつけた。
圧縮魔力を纏った拳が鎧騎士の胴体に突き刺さり、吹っ飛ばされて木の幹に衝突する。
それなりの衝撃だったはずなのだが、殴られた騎士が起き上がって槍を向けてきた。
「へえ……タフだな。さすがはアンデッドというところか」
「ガウッ! 結構、手強いですの!」
「クッ……アンデッドの分際で……!」
ティーが三節棍でソウル・ナイトに叩きつけるが、アンデッドの騎士は盾で攻撃を受け止めた。
レンカもまた苦戦している。ソウル・ナイトの一体と剣を交え、激しい戦いを繰り広げていた。
『オオオオオオオオオオオオオオオッ!』
「『子爵級』ということはオークよりも上の等級だが……それにしたって、強すぎないか?」
カイムが斬りかかってくるソウル・ナイトを蹴り飛ばす。別の一体が槍で突いてくるが、顔を逸らして回避。槍を掴んで投げ飛ばした。
五体のソウル・ナイトのうち三対とカイムが戦い、残り二体をティーとレンカがそれぞれ相手にしている。
『子爵級』は魔物の等級としてはそれなりの強さであったが、階級以上の強さが感じられた。少なくとも、『黒の獅子』と名乗っていた冒険者チームよりも強そうである。
「あのソウルイーターが魔法で支援効果をかけているんです! おそらく、実際の強さよりも強化されているはずです!」
思った以上に苦戦を強いられている前衛三人に、後方にいるミリーシアが叫んだ。
「神聖魔法で浄化します! そのまま耐えてください!」
「了解。みんな、ミリーシアを守るぞ!」
カイムが毒を込めた魔力をソウル・ナイトの頭部に撃ち込んだ。
フルフェイスの兜が腐食して崩れていくが……黒い鉄の兜の下から現れたのは骸骨の頭部である。
毒を撃たれたにもかかわらず平然と剣で攻撃してきた。
圧縮魔力をまとった腕で攻撃を弾き、カイムが大きく舌打ちをする。
「毒の効き目が薄いな……これだからアンデッドは質が悪いんだよ!」
『オオオオオオオオオオオオオオオッ!』
「五月蠅え! 黙ってろ!」
骸骨の頭部を叩き潰す。人間であれば明らかな致命傷。
頭部を失くしたソウル・ナイトであったが……それでも起き上がり、戦闘を続行する。
頭を失くした程度では致命傷にならないようだ。明らかに、村の入口で戦ったゾンビとは格違いのアンデッドだ。
「ガウッ! ガウッ! ガウッ! ガウッ!」
「フッ! クッ! ヤアッ!」
ティーとレンカも必死になって武器を振るい、ソウル・ナイトに応戦した。
時間にして五分に満たない戦いだったが、殴っても蹴っても起き上がってくる騎士との戦いによって、徐々に疲労が蓄積してくる。
カイムはともかくとして、女性二人はかなり厳しそうだった。
「ハア、ハア、ハア……」
「大丈夫ですの!? レンカさん!?」
「こ、こっちの心配をしている場合か……! ティーだって苦戦しているではないか……!」
「そろそろ、二人は限界か……! ミリーシア、まだか!?」
三対のソウル・ナイトの攻撃を捌きながら、カイムが叫ぶ。
後方にいるミリーシアは首から提げたロザリオを握りしめ、ブツブツと詠唱をしている。
これ以上、戦いが長引けば犠牲者が出るかもしれない。そんな危機感がカイムの脳裏によぎった時、ようやくミリーシアの詠唱が終了した。
「お待たせしました! 魔法を使います!」
ミリーシアがロザリオを頭上に掲げた。
瞬間、周囲の霧が晴れて空からまばゆいばかりの陽光が降り注ぐ。
「神聖魔法――『サンクチュアリ』!」
白い光が一帯を包み込んだ。
先ほど、ゾンビを打ち滅ぼしたものよりも数段強力な神聖魔法がアンデッドの巣窟を浄化していく。
清浄な空気に包まれたソウル・ナイトの動きが停止する。
『『『『『オオオオオオオオオオオオオオオッ!』』』』
光に包まれて、カイムらと戦っていたソウル・ナイトの身体が崩れていく。
漆黒の鎧が剥がれ落ち、剥き出しになった骸骨の身体がバラバラになる。
砕け散り、塵になっていく不死の騎士であったが……彼らはどこか解放されたような、心地良さそうな声を漏らしていたのである。
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