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71.依頼の内容


 翌日、再びギルドに訪れたカイムらは依頼の詳細を聞いた。

 『黒の獅子』に任されるはずだった依頼の内容は、町の北方にある廃村に現れたアンデッドの討伐である。

 アンデッドとは不死者。命を落とした人間の死体が魔物化したもの、あるいは死体から抜け出た霊魂が魔物化した存在を指す。


 カイムらはギルドが用意してくれた馬車に乗り、アンデッドの巣窟と化した廃村へと向かっていく。

 馬車にはいつもの面々。カイムとティー、ミリーシア、レンカが座っている。

 御者台で馬を操っているのはギルドが雇った冒険者。ランクはDランクで戦闘には参加しない。


「たかがアンデッドごときにBランク冒険者に依頼する必要があったのか? 少しばかり大げさじゃないか?」


 馬車の中。カイムが受け取ったばかりの冒険者カードを手で弄びながら、頭に浮かんだ疑問を口にする。

 カイムはアンデッドと呼ばれる存在と遭遇したことはない。だが……スケルトンやゴースト、ゾンビといった魔物の存在はもちろん知っている。

 いずれもBランクという上級冒険者が出張るほどの強敵ではないはず。


 カイムが疑問を口にすると、同じ馬車に乗っていたミリーシアがギルドで受け取った依頼書を読み込みながら答える。


「どうやら、アンデッドの中にリッチの目撃情報があったようです。高位アンデッドであるリッチがいるとなれば、下位の冒険者では返り討ちに遭う恐れがあります」


「リッチ……」


 聞き覚えのない言葉である。

 カイムがミリーシアに問いかけようとするが……それよりも先に脳裏に覚えのない光景が浮かぶ。


 不死者の王。ノーライフキング。

 黒衣を纏った骸骨が無数のアンデッドを生み出しており、軍勢を率いて人間に戦争を仕掛けている。

 それはまるで地獄の蓋が開いたような光景。この世の終わりとしか思えないような絶望の風景だった。


「この光景は……」


 『毒の女王』の記憶だ。

 どうやら、女王はリッチと戦ったことがあるようだ。


「なるほどな……無数のアンデッドを生み出すことができるとなれば、確かに脅威だ。やりようによっては国だって滅ぼせるかもしれない」


「ええ、その通りです。過去には、古代霊王(エルダー・リッチ)と呼ばれる『公爵級』のアンデッドが万単位の眷属を率いて都市を滅ぼしたこともあるそうです。依頼されたリッチはそこまでの規模ではないようですが……」


「放っておくわけにはいかないな。都市を呑み込むくらいまで成長されたら堪ったものじゃない」


 ミリーシアの説明にカイムが頷く。

 聞けば、リッチの強さは単体で『伯爵級』。率いている眷属の数によっては『侯爵級』まで脅威が跳ね上がる。

 リッチの厄介なところは、殺した人間をアンデッドに変えて操ること。

 生半可な戦力を送りこめば、かえって敵を強化することになってしまうのだ。


(おまけにアンデッドの強さは時間が経つほどに強くなるらしいからな……思ったよりも面倒な依頼かもしれない)


 ギルドマスターが流れの旅人であるカイムらを頼ったのもそのあたりが理由だろう。

 早急に対処しなくてはいけないのに、仕事を任せるはずだったBランク冒険者が再起不能の怪我を負わされてしまった。

 そこで……苦肉の策として、なかば強引にカイムらに依頼を押しつけたのである。


「がうー……アンデッドは苦手ですの。臭いがきつくて堪りませんの」


 虎人のメイドであるティーがぐったりと項垂れて鼻を押さえる。


「まだ距離もあるはずなのに……ここまで腐った臭いがしてきましたの。鼻が曲がりそうですの……」


「まだ村までは一時間以上もあるはずだが……獣人も大変なんだな」


 レンカが感心半分、呆れ半分な様子でティーに水を手渡して介抱している。

 この様子だと……ティーは戦力になりそうもない。いっそのこと町に置いてきた方が良かったのではないかとすら思えてしまう。


「戦闘ができるのは俺とレンカの二人だけか……そもそも、ミリーシアも留守番していても良かったんだぞ? 今からでもティーと一緒に引き返すか?」


「いいえ、私だったら大丈夫です。今回はお役に立てるかもしれません」


「ん……どういう意味だよ」


 これまで戦闘に参加せずに守られるばかりだったミリーシアに、いったい何ができるというのだろう。

 カイムが怪訝な顔つきになると……ミリーシアは何を思ったか服の胸元に手を入れて、中から金属製のアクセサリーを取り出した。

 それはシルバーチェーンのネックレスだった。チェーンの先には三角形を二つ重ねた形状の星の飾りがついている。


「私は神殿で修業を積んで聖職者の資格を取っているんです。弱いアンデッドであれば祓うことができます。これまでの旅の中では機会はありませんでしたけど……治癒魔法だって少しは使えるんですよ?」


「へえ、そうなのか? 知らなかったな」


 ミリーシアにそんな特技があるだなんて初耳である。

 旅の中で大きな怪我をすることもなかったため、治癒魔法を使う場面もなかった。


「姫様は元々、神殿でシスターをしていたのだ。権力争いによる複雑なパワーバランスのせいで宮廷に呼び戻されることになったが……六つの頃から十年近い年月を神殿で過ごされたのだ」


 レンカが横から補足する。

 十年も修行を積んだのならば一人前の聖職者と呼んでも良いのではないか。

 他の相手ならばまだしも、アンデッドが敵であれば活躍の場面もあるだろう。


「それは頼もしいな。期待している」


「うげー……吐きそうですの……」


 ミリーシアという戦力が増えたのに対して……ティーがすっかりへばって使い物にならなくなっている。

 一縷(いちる)の希望と不安を同時に手にして、カイムらはアンデッドの巣窟となっている廃村へと到着したのであった。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

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