70.ギルドマスターの正体
冒険者ギルドで登録を終えたカイムらは、ギルドマスターであるシャロンから紹介された宿屋に向かった。
冒険者御用達らしい宿屋の店主は、作ってもらったばかりのBランクのギルドカードを見せつけると慌てたように部屋を用意してくれた。
通されたのは宿屋で一番大きな部屋である。広々とした部屋の中には清潔なシーツが敷かれたベッドが四つ並んでいる。
これまでの旅路ではいまひとつ宿屋にツイていなかったが、ようやく人数分のベッドで宿泊することができそうだ。
「やれやれ……昨晩も野宿だったからな。やっとまともな場所で眠ることができそうだ」
「……そうですね」
ベッドに寝転がりながらカイムが言うと、ミリーシアがどこか暗い表情で答えた。
冒険者ギルドを出てからずっとこの調子である。カイムもさすがに気になってきて、寝転がったまま上半身を起こす。
「どうした? 随分と景気の悪い顔をしているが……今になってギルドの依頼を受けるのが面倒になってきたのか」
「いえ、そうではありません。ただ……あのギルドマスターが私の正体に感づいていたようなので、少し神経質になってしまったようです」
「あ? そうなのか?」
カイムはパチクリと瞬きをする。
ミリーシアの正体……つまり皇女であると気がつかれたということだろうか。
シャロン・イルダーナと名乗ったギルドマスターにそんな素振りはなかったはずだが。
「考え過ぎじゃないか? そんな様子はなかったと思うが……」
「ええ……あくまでも恐らくというレベルの話で、確信はないのですけど」
ミリーシアが警戒を表情ににじませ、思案気に語る。
「『イルダーナ』という家名には聞き覚えがあります。帝国中央にある五つの軍団の一つ……『青狼騎士団』の団長と同じ家名です。シャロン・イルダーナという女性とは面識はありませんけれど、あちらが私の顔を知っていても不思議はありません」
「ふうん? 青狼騎士団ね……その団長の身内ということか。ということは、あのギルドマスターも貴族ということか?」
「いえ、青狼騎士団は平民出身の騎士によって構成された軍団です。中央にある五つの軍団は身分や出身階級によって、貴族階級出身者の『銀鷹騎士団』、騎士階級出身の『赤虎騎士団』、平民階級出身の『青狼騎士団』、傭兵部隊である『黒竜兵団』の四つに分けられています。最後の一つは身分を問わず実力で選抜される精鋭部隊で『金獅子騎士団』。皇帝直属の近衛部隊です」
「帝国において平民は姓を持たないが、特別に手柄を立てた者は騎士としての姓が与えられる。イルダーナ家もその一つのはずだ」
ミリーシアの説明にレンカが補足する。
「シャロン・イルダーナというギルドマスターのことは私も知らないが……同じ姓を名乗っているということは一門の人間ということ。あそこの団長の年齢からして、おそらく娘か姪にでもあたるのだろうな」
「それは不味くないか? あの港町の時のようにミリーシアを狙ってくるかもしれないぜ?」
「可能性がゼロとは言わないが……イルダーナ家がアーサー殿下に与するとは思えない。青狼騎士団は第一皇子派閥とは疎遠なはずだからな。どちらかといえばランス殿下寄りだったと記憶しているが……」
レンカが主君に目を向けると、ミリーシアもコクリと頷いた。
「アーサー兄様は血統主義者で生え抜きの騎士や貴族と近しい関係にあります。銀鷹騎士団や赤虎騎士団とは親しくしていましたが、平民出身の叩き上げである青狼騎士団のことは嫌っていました。ランス兄様は身分を気にされない方なので青狼騎士団や黒竜兵団と親しく親交があったはずですわ」
「なるほど……とりあえず、敵ではないと判断していいな。依頼は受ける方向で行こう。参考までに聞きたいのだが……残る金獅子騎士団はどうなんだ? アーサーとランスのどっちに近い?」
「金獅子騎士団は皇帝陛下の直属。基本的には皇帝陛下に絶対忠誠で皇子には従いません。ただし、金獅子騎士団から護衛としてそれぞれの皇族に付けられた騎士については、皇帝陛下よりも自分の主を優先させます」
「私も所属は金獅子騎士団なのだ! 皇帝陛下と団長の命によって姫様付きの護衛となった!」
レンカがどうだとばかりに胸を張って主張した。
カイムは頷いて、説明を受けた情報を簡単にまとめる。
「つまり……帝国中央にある五つの軍団のうち、銀鷹騎士団と赤虎騎士団は第一皇子であるアーサーに。青狼騎士団と黒竜兵団は第二皇子であるランスについているというわけか。金獅子騎士団は中立で……必ずしも強いわけではない。レンカのように弱っちいやつもいると」
「いやいやいやいや! 私は弱くなどはないぞ!? 貴様が化け物なだけで、金獅子騎士団では次世代を担うホープと言われていたのだ!」
「なるほど……つまりは帝国の精鋭部隊もその程度のレベルであると。アーサーとやらを倒すのもそれほど難しくはないかもしれないな」
「だから私が弱いことを前提に話をするんじゃない! 私は本当にそこそこ強かったのだぞ!?」
レンカが泣きの入った声で叫ぶ。
よほど自分が雑魚扱いされているのが屈辱だったのだろう。犬のようにキャンキャンと泣きわめいている。
「カイム様……レンカは本当に騎士団では有望な若手と呼ばれているのです」
見かねたミリーシアが横からフォローを入れてきた。
「レンカは下級騎士の生まれなのですが幼い頃から剣術の才を高く評価されており、最年少で金獅子騎士団に入団した天才なのです…………一応」
「一応、なのか……」
察するに……才能はあっても実戦経験が乏しかったのだろう。
剣術の実力はあってもそれは単純な試合や稽古におけるもの。実際に盗賊などと戦ったときには、慣れない実戦に不覚をとってしまったのではないだろうか?
「帝都に行くまでに冒険者として活動するのも悪くないかもしれないな……主にレンカの訓練として」
「必要ない……と言いたいところだが、この旅の中で私も己の未熟さを学んだ。不本意な経緯ではあるが、依頼には全力を尽くさせてもらう」
「決まりだな。ギルドマスターからの依頼を受ける。せいぜい冒険者の仕事を学ばせてもらうか」
かくして、冒険者として依頼を受けることが決まった。
冒険者に憧れていたカイムにとっては渡りに船。帝都への道のりはわずかに遠のいてしまったが……束の間の寄り道を楽しむことになったのである。
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