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69.ギルドマスターの依頼


「おいおい……俺達は依頼を出しに来たんだぜ? どうして依頼を受ける側にならなくちゃいけないんだよ」


 ギルドマスターであるシャロンの提案に、カイムが呆れたように肩を落とす。

 正直、カイムだけならばこの提案を受けても構わない。冒険者という職業は憧れだったし、わざわざギルドマスターに請われてスカウトされるなんて素直に光栄である。

 だが……現在はミリーシアを帝都まで送っていく途上。無駄な時間はかけられなかった。


「もちろん、そこまで時間はかけさせないわよ。わざわざ森を突っ切ろうとするくらいだから、急いでいるのでしょう?」


「だけどなあ……」


「それとこれとは話が別ではありませんか? 私達はあくまでも依頼人として冒険者を雇いに来たのです。そこに報酬以外の条件を足すなどフェアとは言えませんわ」


 言いよどんだカイムに代わり、ミリーシアも眉尻を上げて反論する。


「そちらが優秀な冒険者を失ってしまったことは気の毒なことです。けれど、それはそちらの都合。私達は降りかかる火の粉を払っただけですし、責任を取らされる覚えはありませんわ」


 もっともな言い分である。

 『黒の獅子』が決闘を挑んで敗北し、再起不能の怪我を負ってしまったとしてもそれは彼らの責任。

 あるいは、代えが効かない人材だからと暴走する彼らを放置していた冒険者ギルドの不手際である。

 カイムらには一切の責任はない。それどころか……冒険者に絡まれて一方的に戦いを挑まれたことを官憲に訴え出れば、何らかの処分を受けるのはこのギルドの方だろう。


「ええ、そちらの仰る通り。だから……これはあくまでも取引。そちらの依頼を受ける条件やペナルティなどではないわ」


 ミリーシアの正論を受けながら、シャロンは少しも動じることなく穏やかな笑みで言葉を重ねる。


「皆様に任せたい仕事は『黒の獅子』に任せようとしていて、早急な対処が必要なものだけ。拘束時間は三日とかからないでしょうね。もちろん、報酬だって上乗せさせてもらうし、そちらが求めている森の案内役だってこちらで紹介させてもらいましょう。案内役への依頼料もこちらでもたせて頂くわ」


 シャロンはスーツの胸元……こともあろうに豊かな胸の谷間から丸めた羊皮紙を取り出し、テーブルの上に広げてみせた。


「ちゃんと契約書だって用意したから、後から約束を反故することもしないわよ。当ギルドで登録して依頼を受けてもらう条件や報酬について書いてあるから確認してね」


 カイムが手に取るよりも先に、ミリーシアがさっと羊皮紙を奪い取った。

 素早く書面に目を走らせて……細い首を傾げてシャロンに訊ねる。


「……この『飛び級でBランクに昇格させる』というのはどういうことですか? ギルドに登録したばかりの人間はEランクからのスタートのはずですけど?」


「ああ、貴方達に任せたい依頼の最低受注ランクがBランクでね。依頼を受けてもらうためにはそのランクになってもらわないと困るのよ」


 シャロンが形の良い唇に人差し指を添えて、内緒話でもするように声を潜める。


「あまり大声では言えないけれど……冒険者ランクはギルドマスターの権限でBランクまでは上げることができるのよね。依頼達成の功績が無い代わりに、実力を証明するだけの試験が義務付けられているけれど」


「……なるほど。先ほどの決闘を『試験』ということにして私達のランクを上げるということですか。まだ登録もしていないのに強引なことです」


 ミリーシアが呆れ混じりの嘆息をこぼし、契約書をテーブルの上に置いた。


「カイム様、これは悪い話ではないと思いますけど……どうしましょう?」


「どうって言われてもな……俺には損得がよくわからない話だったんだが?」


 冒険者を夢見ていたカイムとしては、いきなりBランクとして登録させてもらえるのはラッキーな気がする。

 だが……決闘に勝利したというのに、『黒の獅子』がやるはずだった仕事を押し付けられてしまうのはどこか納得がいかない。


「提案を断って普通に依頼を出すこともできるのでしょうが……案内人が見つかるまでに何日かかるかわかりません。森を迂回して帝都を目指すのであれば余計に時間がかかってしまいますし、ギルドが案内人を紹介してくれるのは悪くない取引かと」


「雇い主がそう言うのであれば、それで構わないよ。俺に文句はない」


「決まりね。それじゃあ、登録に必要な書類を用意するわ。後ろの二人の分もね」


 シャロンがパチリと両手を合わせて、唇を三日月の形にする。


「そうそう……ギルドへの登録は偽名でも構わないわよ。どうせ本名かどうかを証明する方法なんてないんだし、やんごとない身分の方がお忍びで登録することも珍しくはないから。ギルドカードは身分証明としても使えるし、きっと無駄にならないはずよ?」


「…………」


 悪戯っぽく笑うシャロンを、何故かミリーシアが目を細くして睨みつけるのであった。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

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