67.決闘の後
「こ、こちらに! こちらに来てください!」
『黒の獅子』との決闘に勝利して力を示したカイムらであったが……そのまま『めでたし、めでたし』とは終わらなかった。
受付嬢がカイムらを連れて奥の部屋に引っ張っていく。
「この部屋は……?」
半ば強引に連れていかれたのは応接室のような部屋だった。
部屋の中央にはテーブルが置かれており、テーブルを挟むようにして横長のソファが設置されている。
「ここに座って待っていてくださいっ! すぐにお茶をお持ちしますからっ!」
「お、おい! 用件は……」
「すぐに戻りまーす!」
カイムらを部屋に案内するや、小動物のようなチマチマした動きで受付嬢が出て行ってしまった。
カイムら一行は部屋に残されたまま唖然とする。
「えーと……俺ら、冒険者ギルドに何しに来たんだっけ?」
カイムは眉間を指先でつつきながら考え込む。
そういえば……どういう経緯でおかしな冒険者パーティーに絡まれて決闘し、あげくに応接室に通されることになったのだろうか。
「冒険者を雇いに来たはずですよ。森を案内してもらうために」
溜息まじりにミリーシアが言って、ソファに腰を下ろした。ポンポンと隣を叩いてカイムにも座るように促してくる。
特に断る理由もないので、カイムも言われたとおりにソファに座った。
「そうだったな……ん? 冒険者を雇いに来たはずなのに、どうして冒険者と決闘したんだっけ?」
思い返してみれば、おかしな展開になったものである。
護衛は必要ないと事実を言っただけなのに冒険者に絡まれて、本当に護衛がいらないのかを証明するために戦って。
勝利したはずなのだからもういいだろうと思うのだが、どうして奥の部屋に通されたというのだろう?
「ひょっとして……ミリーシアさんの正体がバレたんじゃないですの? 皇女様だって勘付かれたから接待のために連れてこられたとか……」
ミリーシアの隣に座ったカイムに、後ろからティーが意見を出してきた。
ちなみに、ソファに座っているのはカイムとミリーシアの二人だけである。ティーとレンカは使用人と兵士として後ろに立っていた。
夜は我先にカイムの隣に飛び込んでくるくせに、こういう席ではキチンと場をわきまえている二人である。
「それは大丈夫だと思いますけど……私は生まれてからずっと王宮の中で過ごしてきたので、貴族や騎士以外とはほとんど顔を合わせていませんから」
「やはり、さっきのゲス共を倒してしまったことに問題があるのでは? ギルドに不利益を与えてしまったとか?」
レンカも直立した姿勢で考えを述べる。
カイムはその言葉に「うーん」と考え込み、ゆっくりと首を振った。
「そもそも、アッチから仕掛けてきた決闘だからなあ。わざわざこんな部屋に通されて茶まで出してくれるんだ。ネガティブな用件じゃないと思うが……」
そうこうしているうちに部屋の扉がノックされた。
入ってきたのはお盆にティーカップを載せた受付嬢と……二十代後半ほどの年齢のスーツ姿の女性である。
スラリと通った鼻筋。口紅を塗った柔らかそうな唇。スタイルも良くていかにも『大人の女性』といった雰囲気の美女だった。
「お、お待たせしました。お茶をお持ちしました」
「お待たせしちゃってごめんなさいね。Bランク冒険者をあっさり倒した期待の新星さん?」
「貴女は……?」
落ち着いた雰囲気の女性にカイムは目を細めた。
スーツの女性はニッコリと親しげに微笑み、胸に手を当てて名乗りを上げる。
「初めまして。このギルドのギルドマスターをしているシャロン・イルダーナよ。わざわざ来てもらってごめんなさいね?」
その女性――ギルドマスターであるシャロン・イルダーナは、美しい顔に嫣然とした笑みを浮かべたのである。
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