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66.決闘―決着


「さあ、Bランク冒険者殿? みっともない戦いは見せてくれるなよ!」


「当たり前だ! 死にやがれ!」


 挑発するカイムに、ニックという名前のBランク冒険者が大剣を振りかぶる。

 放たれた斬撃はカイムの頭部を狙っていた。明らかに殺すつもりの一撃。相手を殺してはならないというルールを完全に無視している。


「やれやれ、おっかないな……だが、本気を出してくれるのは有難い」


 大剣の一撃を最小限の動きで躱しながらカイムが苦笑した。

 カイムがこの決闘を受けた理由は、連れの女性三人が挑発を受けてその気になってしまったことである。

 だが……カイムもまた、憧れの冒険者。その中でもBランクというハイレベルな実力を持つ相手と戦えることに期待を膨らませていた。


「せいぜい、期待を裏切ってくれるなよ。少しは楽しませてくれ!」


「勝手に言ってやがれ! 死ね!」


「お?」


 ニックが持っていた大剣が青白い霜で覆われていく。

 数メートル離れた場所にいるカイムのところまで、ヒヤリと背筋が震えるような冷気が伝わってきた。


「凍えちまえ……【アイスチャージ】!」


「おおっ!?」


「喰らえ!」


 ニックが横薙ぎに剣を振るうと、一メートルほどの長さの氷の柱がカイムめがけて飛んできた。先端が尖った氷柱をカイムは下から蹴り上げて防ぐ。


「魔剣……いや、魔法を剣に纏わせているのか!?」


 おそらく、ニックは剣術と魔法を併用させる魔法剣士だったのだろう。

 冒険者には剣士も魔法使いも大勢いるが、両方を使える人間は多くはない。性格はともかくとして……ニックは冒険者として十分な実力を持った人間のようである。


「まだまだ終わりじゃねえぞ、【アイスビルド】!」


 ニックが大剣を地面に叩きつけた。

 大ぶりな一撃はもちろん、カイムに命中することはなかったが……その剣先から激しい冷気が迸って地面を凍らせる。

 カイムは足元が凍らされて身動きを封じられてしまった。


「ハハッ、すごいな! 口先だけの男じゃなかったわけか!」


 ニックの実力を目の当たりにして、カイムは称賛の声を上げる。

 足を凍らされて動きを封じられてしまったものの、カイムは危機感よりも喜びの方が強かった。

 自分が憧れを抱いていた職業――冒険者。

 その実力がまがい物ではなかったことが嬉しかったのである。


「チッ……余裕こいてくれるじゃねえか。状況がわかってねえのか!?」


 カイムの内心を知らないニックが大きく舌打ちをする。

 身動きが取れない状況に追いやられ、なおも笑顔を浮かべているカイムに馬鹿にされていると思ったのだろう。


「そんな状態でさっきみたいに躱せるわけねえだろうが! 全身を穴だらけにしてやるぜ!」


 ニックが大剣を掲げると、周囲に十数本の氷柱が出現した。刃物のような先端はまっすぐにカイムに向けられている。


「貫きやがれ……【アイスニードル】!」


「ま、待ってください! それはやりすぎ……!」


 ニックが魔法を解放させる。

 審判役の受付嬢が制止の言葉を発するが……それよりも早く、十数本の氷柱がカイムめがけて飛んでいく。

 このまま何もしなければ、カイムの身体は氷柱に貫かれて穴だらけになってしまうだろう。


「だが……それで殺られる俺じゃないな!」


 闘鬼神流基本の型――【玄武】

 カイムは身体の前面に圧縮した魔力を集中させて防御力を強化させた。

 尖った氷柱が次々と身体にヒットするが……薄皮一枚すらも突き破ることなく、あっさりと砕け散っていく。


「なあっ!? ば、馬鹿な!?」


「お返しだ……【麒麟】!」


 無傷な対戦相手の姿に愕然とするニックめがけて、カイムが拳を突き出した。

 回転する魔力の塊が放出されてニックの腹にぶち当たる。


「グベエッ!?」


 かなり弱めに放ったおかげで腹を突き破ることこそなかったが、内臓が破裂するギリギリの打撃を受けてニックが吹き飛んだ。

 何度も地面に転がって壁にぶつかって停止する。死んではいないようだが……意識を完全に失っていた。


「『相手を殺してはならない』……この決闘のルールに救われたな。俺が本気だったら秒で終わってたぞ?」


 倒れたニックめがけて指を向けて、カイムは勝利宣言をする。

 ティー、レンカの戦いもそれぞれ終わっていた。『黒の獅子』を名乗る冒険者パーティーは全員やられており、勝敗は決している。


「え、ええっと……こ、こちらの方々の勝利です!」


 思いもよらない結果に呆然としていた受付嬢が遅れて宣言をする。

 周囲のギャラリーから無数のざわめきが生じて……やがてそれは喝采へと変わっていった。


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