65.決闘ーティーの戦い
「ムンッ! ムンッ! ムンッ! ムンッ! ムンッ! ムンッ! ムンッ! ムンッ!」
手下その二が縦横無尽にメイスを振り回し、強烈な攻撃をティーに叩き込んでいく。ティーは三節根で器用に打撃を防御する。
法衣を着た手下その二は金属製のメイスを軽々と振って、重く強い攻撃を何度も浴びせかけていた。そのパワー、スピードは尋常ではない。並みの戦士であれば受け流すことすらできずに武器ごと潰されてしまうだろう。
「ぬうううううううっ! 細身でありながらその腕力。その忍耐! 女とは思えぬ使い手よ!」
「そちらのは見掛け倒しで残念ですの。棍棒を振り回して女一人も潰せないだなんて、立派な筋肉は飾りですか?」
「言ってくれる! だが……良いぞ!」
ティーの挑発に手下は愉快そうに笑う。
「拙僧は生意気な女を屈服させるのが大好きなのだ! ちょっと武を齧ったくらいで調子に乗っている娘を組み臥し、力ずくで犯して子を孕ませることが拙僧の喜びである!」
「気持ち悪いですわ……貴方、本当にお坊さんですの?」
ティーがドン引きした様子で訊ねると、手下その二は「カカッ!」と喉を鳴らすようにして笑った。
「我が崇める神の教えでは、強き男は女を好き勝手に孕ませても許されるとされている! 強者の子を生んで強靭な血を後世に残すことこそが女の本懐にして義務である! 愛だの恋だのという薄っぺらな感情を超越した、生物としての正しき在り方よ!」
男が女性の尊厳を踏みにじる持論を叫びながら、金属製のメイスをティーの三節根に叩きつけた。
木製の棒が「ミシリ」と不吉な音を立てる。まともに喰らっていては武器のほうが持ちそうもなかった。
「フン……好き勝手な理屈を捏ねてくれますの。まあ、ティーはそこまで間違っているとは思いませんけど」
多くの女性からすれば反感しか持たれないような手下の理屈であったが……意外なことに、ティーはそれに賛同していた。
強い男が子孫を残すべき。弱者を踏みにじっても許される。
それは獣人であり、戦闘民族として生まれたティーにとっては受け入れやすい思想であった。
ただ……間違っていたのは一点。
手下その二。得意げにメイスを振り回すその男が、ティーにとっては子を孕んでやるほどの価値のない弱者であっただけである。
「だけど……残念ですの。ティーのお腹はもう先約がいますの。貴方のひ弱な子種なんていりませんわ」
「グッ……!?」
ティーが猛攻の隙を縫って、手下の腹部に打撃を入れる。
三節根の先端が胃臓を真上から叩き、痛烈な痛みと吐き気が男の身体を襲う。
「ゴホッ……ゴホゴホッ……この、よくも……!」
「ティーを押し倒して良いのはこの世でただ一人。誰よりも強く、そして優しいカイム様だけ。三下の筋肉ダルマが夢見るんじゃないですわ!」
ティーが三節根を振り回して反撃に打って出た。
先ほどとは真逆の構図。今度はティーが手下その二に猛攻を浴びせかける。
「グ……ヌウウウウウウウウウウウウウウウウッ!?」
「ガウッ! ガウッ! ガウッ! ガウッ! ガウッ! ガウッ! ガウッ! ガウッ!」
頭部、肩、胸、腹、脚。全身のあらゆる箇所に三節根が叩き込まれる。
手下その二もメイスをかざして防御しようとするが、まるで生き物のような三節根の動きについていくことができず、どんどんダメージを重ねてしまう。
三節根は特殊な形状からしてわかるように非常に扱いが難しい武器である。
だが……極めることができれば、時にシンプルな刃物以上のパワーとスピードを生むことになる。
連結された棒が回転する遠心力から生まれる打撃力。奇怪な円運動は捉えがたく、相手を翻弄させる効果もあった。
受けに回ると弱い武器ではあったものの、攻めに出たときには相手に反撃の隙を与えない連続攻撃を生み出すことができるのだ。
「ヌウウウウウウウウッ……この、女があああああああああああああっ!」
手下その二は捨て身の攻撃に打って出た。
肉体を魔力で強化して防御力を高め、全身の力を込めてメイスの一撃を繰り出したのだ。
捨て身覚悟の一撃は防御の上から骨を砕く威力が込められており、いかに虎人の腕力といえども受けきれるものではなかった。
「ガウッ!」
だが……そこでティーが予想外の行動に出た。ティーもまた防御を捨てたのだ。
手下のように捨て身の特攻に出たのではない。ただ……手に持っていた三節根を「ヒョイッ」と投げ捨てた。
「ムウッ……!?」
クルクルと空中を回転する三節根。手下は思わずそちらに視線を奪われてしまう。
そして……目を戻したときにはティーの姿が忽然と消えており、メイスによる一撃も空を切った。
「なっ……どこにいって……!?」
「後ろですの」
「ッ……!?」
手下が弾かれたように振り替える。
次の瞬間、ティーの両手がうねりを上げた。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
ティーが放った技は……連続での引っかき攻撃である。
ティーの指が、爪が手下の顔面を何度も何度も繰り返し引き裂き、真っ赤な線が無数に刻まれていく。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
手下その二が痛みのあまり絶叫を上げる。
ただの爪と侮るなかれ。
ティーは虎人。人でありながら虎の属性も併せ持っているのだ。鋭く尖った爪にはナイフと同等の切れ味がある。
おまけに、ティーは両手に魔力を集中させて握力と切れ味を底上げしていた。カイムの闘鬼神流にはおよばないものの、魔力によって強化された爪の攻撃は並大抵のものではなかった。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアッ!? 目が、目があああああああああああああっ!?」
手下その二は顔面から大量の血を流して地面を転がる。
致命傷でこそないものの、ティーの爪が眼球にも深い傷を刻んでいた。仮に魔法で治療したとしても完全に治癒することはあるまい。
「フッ……悪は滅びましたの。これまで傷つけてきた女達に地獄でわびるといいですわ」
ティーは胸を張って勝利宣言をして、両手についた血をハンカチで拭い取った。
光を失った男は戦士生命を絶たれることになり、大好物の女を抱くことも二度となかったのである。
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