62.ギルドの決闘
「では……今回の模擬実践のルールについて説明します」
ギルドの裏にある鍛錬場にて、ショートカットの受付嬢が説明を始める。
鍛錬場にはカイムとティー、レンカの三人。少し距離を取って『黒の獅子』を名乗るBランクパーティーが相対していた。
非戦闘員のミリーシアは鍛錬場の端で戦いを見守っている。他にも何人もの冒険者が観戦しており、中には酒瓶を片手にしてどちらが勝つか賭け事をしている者もいた。
「今回はあくまでも腕試しの模擬戦です。片方は冒険者でもない方々ですし、相手を殺すことは当然ながらご法度。高威力の魔法も禁止とさせていただきます。戦闘は三対三で行い、全員が戦闘不能になるか、降参した方が負けです」
受付嬢がカイムらの方に顔を向ける。冒険者でもない一般人であるカイムらに対して、受付嬢の表情は心配そうな顔だった。
「いざとなれば止めさせていただきますが……くれぐれも無理はしないでください。いくら同意の上とはいえ、依頼人に大怪我をさせてしまったら責任問題になってしまいますから」
「気をつけよう。ちなみに……俺達がアッチに大怪我させる分には問題ないんだよな?」
カイムが冗談めかして訊ねると、受付嬢が苦笑する。
「ないことはないですが……喧嘩を売ってきたのはニックさん達です。ルール違反さえしなければ、どんな結果になったとしても文句を言える立場ではありませんね」
「それを聞いて安心したよ……さあ、闘ろうか」
カイムは好戦的な笑みを浮かべて、少し離れた場所にいる『黒の獅子』を観察する。
横に並んだ三人の冒険者であったが……Bランクに連ねる冒険者だけあって、目立った隙は見当たらない。
中央に立つリーダーのニックは大剣を持った剣士。向かって右側の手下その一は短剣を持っており、おそらくは斥候職であるとわかった。
問題は左側の手下その二。この男は金属の棒の先端に楕円形の頭部がついた、いわゆる『メイス』と呼ばれる鈍器を持っている。
「……って、まさかアイツは僧侶なのか!?」
よくよく見てみると、手下その二が着ている服は僧侶が着る法衣である。
武器のメイスにも宗教のシンボルらしき星のマークが刻まれていた。
「僧侶が女欲しさに決闘するとか正気かよ……とんだ生臭坊主じゃねえか」
「カイム殿、あの刻印は『ジークゼロン教』の紋章だ」
「ジークゼロン教……?」
横からレンカが注釈を入れてきた。
聞き覚えのない単語である。カイムが知っている『聖教』とは違うのだろうか?
「ジークゼロン教は帝国から大陸東部で信仰されている少数派の宗教だ。伝説の英雄であるジークゼロンを至尊として崇め、『武』を極めて神の頂に至ることを目的としている」
「『武』を極める……随分と物騒な教義なんだな。宗教というよりも武術の道場じゃないか」
「ああ……彼らは強者こそが正義という過激な思想を持っており、強い者は力ずくで財や女を奪っても許されるというのが主たる教えらしい。要するに邪教だな。帝国は信仰の自由を認めているために咎められることはないが、何年かに一度はジークゼロン教の信者が良からぬ事件を起こす」
「…………」
つまり……決闘を利用して女を奪おうとする試みは、この僧侶にとって正しい行いというわけである。
女性を力ずくで奪って犯すこともまた、ジークゼロン教では肯定されるのだろう。
「不愉快極まりないな……まあ、他人のことを説教できる立場ではないが」
カイムも女性関係に関しては、他者を責められないようなことをしている。『黒の獅子』の三人をどうこう言う資格はなかった。
「とはいえ……もちろん、負けてやるつもりはない。売られた喧嘩だ。嫌というほど買ってやろうじゃないか!」
「はいですわ! カイム様の女である私達に手をだそうだなんて百年早いですの!」
「外道の輩を誅するのも騎士の役目。不埒な男どもを成敗してやろう!」
カイムが宣言し、ティーとレンカが闘志をむき出しにして追従する。
「それでは、決闘を始めます! 両者とも構えて……はじめ!」
受付嬢が戦いの開始を宣言する。
三人組の冒険者が一斉に襲いかかってきて、カイムらはベテラン冒険者である男達を迎え撃った。
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