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61.通過儀礼


「ああ……なるほどな。そういうことかよ」


 カイムは突然、現れた三人組の冒険者の目的を悟る。

 つまり……彼らはティーとミリーシア、レンカという美女に見惚れておかしな提案をしてきたのだ。

 大輪の花にたかってくる羽虫にカイムは舌打ちをする。


「なあ、こういう連中って放っておいていいのか?」


 カイムが受付嬢に訊ねた。

 冒険者同士でのケンカは当人の自己責任。ギルドは関与しないものであると聞いたことがある。

 だが……カイムらは冒険者ではない。仕事を頼みに来た依頼人なのだ。

 ギルドにとっての収入源である依頼人に絡むなど、言語道断な行いではないか。


「もちろん、許されることではありません。依頼人にちょっかいをかけるのはそれくらいにしてください、ニックさん。規約違反でペナルティを受けますよ?」


 受付嬢がカウンター越しに冒険者を嗜める。

 三人組のリーダーらしき男性……ニックと呼ばれた大柄な男が両手を広げておどけた仕草を取った。


「おいおい、ルーシーちゃん。あまり酷いことを言うなよ。俺達は無謀な依頼を出しにきた連中に現実を教えてるだけじゃねえか。悪意はこれっぽっちもねえぜ?」


 ニックはニヤニヤと不愉快な笑みを浮かべて、カイムを頭一つ上の高さから見下ろした。


「アンタら、見たところ余所者(よそもの)だろ? わかってねえみたいだから教えてやるが……リュカオンの森は魔物の巣窟だ。ちょっと浅層に潜るだけならまだしも、森を突っ切って帝都にまで行くなんて中堅以上の冒険者でも安全とは言えねえ。護衛を雇わず、戦えもしない道案内人だけ雇って行こうなんて自殺未遂なんだよ」


 ニックは「フフン」と鼻で笑いながら、拳で自分の胸板を強く叩く。


「だから……どうしても森に行こうって言うのなら、Bランク冒険者である俺様がお前らの実力を測ってやる! 俺に一発ぶち込めるようだったら、森を通るのに十分な力を持っている証明になるだろうよ!」


「へへっ、俺達に勝てないんだったら諦めるんだな! 街道をぐるっと遠回りするか、さもなければ護衛を雇いなよ。ま……このギルドでリュカオンの森を踏破できるパーティーは俺達くらいのものだろうけどな!」


 ニックの言葉を引き継ぎ、手下二人もがずずいっと前に出てきて得意げに笑う。


「俺達……『黒の獅子』はこの町でトップの冒険者パーティーだ! もちろん、依頼料は安くはねえが……」


「足りねえ分は身体で払ってもらって構わぬぞ? ちょうど三対三で数も合うことだし……ベッドの中で神の教えについてタップリと教えて進ぜよう!」


「はあ……不愉快な連中だな。これが母さんの言っていたギルドのあるある(・・・・)ってやつなのか?」


 カイムは呆れたように肩を落とし、子供の頃に母親から聞かされた冒険者の話を思い出す。

 少年や女の冒険者がギルドを訪れると、タチの悪い冒険者に絡まれてしまうものなのだ。冒険者にとっては一つの通過儀礼。いわゆる『お約束』というものらしい。


「がうっ……不愉快ですの」


「フウ……困りましたわね」


「チッ……お嬢様を汚れた視線で見るとは許しがたい」


 舐めるような視線を向けられて、ティーとミリーシア、レンカの三人も不愉快そうな表情になっていた。


「そこまで言うのでしたら……相手をしてもらいましょうか?」


 三人を代表してミリーシアが口を開く。

 普段は穏やかで落ち着いた瞳がびっくりするほど冷めており、見下したような極寒の視線を男達に向けている。


「貴方達がどれほどの冒険者かは知りませんが……カイムさんよりも強いとはとても思えません。貴方達を倒すだけで実力が証明できるというのであれば、安いものではありませんか」


「がう、ティーも同意ですわ。カイム様はもちろんですが……ティーだってぶちのめしたいですの」


 ティーも底冷えのする声で宣言して、バキボキと手を鳴らす。


「私も相手になろう。ここ最近、失態ばかり続いていたからな。いい加減に活躍しておかないと騎士の沽券にかかわるからな!」


 レンカも腰の剣に手を添えて闘志をむき出しにする。

 カイムのあずかり知らぬところで男達の挑戦を受けることが決まってしまった。


「最近、コイツらに振り回されてばかりだな。ないがしろにされているわけではないと信じたいのだが……」


「えっと……本当に受けるおつもりですか? ニックさんは素行は悪いですけど、実力は本物です。断った方がよろしいのでは……?」


 受付嬢が気を遣って言ってくるが、カイムはゆっくりと首を振る。


「こうなったら、コイツらは聞かないんだよ。迷惑をかけて申し訳ないが……鍛錬場とやらを貸してもって構わないか?」


「はあ……それは良いのですが……」


 受付嬢はまだ迷っている様子だが、それでもカイムの要望を受け入れてくれる。


(まあ……現役の冒険者と戦えるのは貴重な経験かもしれないな。Bランク冒険者とやらがどれほどのものか、試させてもらうとしようか)


 カイムはやれやれと肩をすくめながら……内心で心を躍らせる。

 新人冒険者が先輩に絡まれるのはギルドのお約束。

 そして……天才的な新人が先輩を叩きのめしてざまあ(・・・)するのもまた、お約束である。


(まるで俺が冒険者になったみたいじゃないか……せっかくの機会だし、せいぜい暴れさせてもらおうか)


 カイムは束の間の冒険者ごっこを愉しむため、受付嬢に案内されて鍛錬場へと向かうのだった。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] テンプレといえばテンプレなのだけど、はみ出し者や社会不適合者が多い冒険者といえどB級という上位ランクにまで到達しているなら、人並みの自制心や社会適応能力を持っていて当然だと思うのだが むしろ…
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