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48.攫われた二人


 黒ずくめの老人への尋問を終えたカイムは、そのまま真っすぐ宿屋に向かった。

 ティーと一緒に泊まっていた宿屋ではない。ミリーシアとレンカが泊まっている宿屋だ。


「ミリーシア! レンカ!」


 宿屋に踏み込んで部屋の扉を開けるが……そこに二人の姿はない。

 部屋の中は家具が倒れており、二人の物と思われる荷物の残骸が転がっている。

 争ったような形跡が残っているだけ。そこにいるはずの二人の女性の姿は忽然と消えていた。


「チッ……やられたか!」


「カイム様……二人はどこに連れていかれてしまったのでしょう……?」


 後から部屋に入ってきたティーが不安げに言う。

 ティーはまだ二人との付き合いが浅い。否、時間だけで言うのであればカイムもさほど変わらないのだが……それでも、旅の仲間の安否が心配なのだろう。

 もちろん、心配をしているのはカイムも同じ。ミリーシアともレンカとも身体を重ねているのだから当然である。


「おそらく、二人が連れていかれたのは太守の屋敷だろうな。あのジジイが言っていたことが正しいのであればの話だが」


 カイムが忌々しげに吐き捨てる。

 黒ずくめの老人を尋問したことにより、カイムは襲撃者がこの町の太守に雇われた人間であることを知らされていた。


 そもそも、今回の襲撃の目的はミリーシアだったのだ。

 カイムの想像していた通り、ミリーシアは貴族家の令嬢で特殊な事情を抱えていたらしい。詳細については黒ずくめも知らず、わからなかったのだが……太守がミリーシアを、ついでに護衛であるレンカを拉致したのはほぼ間違いない。


(昼間の様子から太守と知り合いだということはわかっていた。だが……そこまで警戒していた様子はなかったから、すぐにトラブルが生じるということはないと思っていた。どうやら……考えが甘かったらしいな。野宿することになってでも、すぐに町を出るべきだった)


 ミリーシアもすぐに町を出ていこうとはしなかったし、宿屋を分けることについても異論は出てこなかった。

 だから、そこまで緊急性のある問題だとは思っていなかったのだ。一晩くらいは別行動をとっていても問題ないと油断してしまった。


「完全な油断だな……情けないぜ。まるで十三歳のガキみたいな凡ミスをしちまった」


「がうっ……カイム様、これからどうされるつもりですの?」


「言われずともわかるだろう? 太守の館に乗り込んで二人を救出する」


 カイムが即答する。

 決して争いごとが好きというわけではないが、身内に手を出されて泣き寝入りするつもりはない。

 最悪の場合、この町そのものを敵に回してでもミリーシアとレンカを助け出す。これはカイムの中ですでに決定事項となっていた。


(わざわざ暗殺者を差し向けてきたということは、ミリーシア達が法を犯して指名手配されているというわけではないはず。二人を拉致することは、太守にとっても表沙汰にしたくないこと。だから、憲兵ではなく闇の人間を使ったんだ)


「とりあえず……邪魔する奴は片っ端からつぶしていこう。コイツみたいにな!」


「ぐぎゃっ!?」


 カイムは宿屋の廊下からこちらを覗き込んでいた男の頭部をつかみ、壁に叩きつけた。卵が割れるような音が鳴って男の頭部が粉砕される。

 その男は一見して一般人のような恰好をしていたが……太守が送り込んだ刺客、あるいは見張りに違いない。


「血の匂いが隠しきれてないぜ。迂闊だな」


「く、そ……」


 辛うじて息があった男が苦悶の声を上げながら崩れ落ちる。

 カイムは倒れた男の生死すら気に留めることなく、足早に宿屋から出ていった。

 太守の館に乗り込んで二人を救出することを決めたカイムであったが……その前に大きな問題があった。


「ところで……領主の屋敷はどこにあるんだ?」


 重大な問題である。

 場所がわからなければ、そもそも乗り込みようがなかった。


「がう……ティーが匂いを嗅いで追跡しますの。後からついてきてくださいですの」


「……頼む」


 カイムは今一つ締まらない情けなさを感じながら、ティーの後ろを歩いて続くのであった。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

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