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24.ベッド争奪


 カイムとミリーシア、レンカの三人は宿屋の空き部屋へと通された。

 通された部屋は二階の角部屋。あまり日当たりも良くない北側の部屋である。


「はいはい、こちらのお部屋にどうぞ―」


 店主の娘さんの案内で部屋の中に通されると、そこにはベッドが一つと簡素なテーブルとタンスが詰めるようにして置かれていた。

 一人旅で泊まるならば十分な広さかもしれないが、三人で泊まるとなればかなり手狭なスペースである。


「宿泊料に夕食代は含まれてます。受付横に食堂がありますから、てっぺんの時間までに下りてきてください。日が変わったら食堂閉めちゃいますから気を付けてくださいねー。それとお酒を飲むなら別料金になりますから、お財布を忘れないように下りてきてくださーい」


 看板娘の少女はハキハキとした口調で説明をする。カイムに毛布を手渡して、「それでは、また後で」と部屋から出て行ってしまった。

 部屋には三人の男女だけが残され、場を気まずい沈黙が支配する。


「…………」


「…………」


「…………」


 ミリーシアとレンカの二人はともかくとして、カイムは出会ってからまだ三日と経っていない。

 この町に来る途中で夜営をする機会もあったが……もちろん、使っていたテントは別々。同じスペースで寝泊まりなどしていなかった。


(気まずいが……いつまでも口を貝にしているわけにもいかないな。とりあえず、決めなくちゃいけないことを話すか)


 黙っていても埒が明かない。一同を代表して、カイムがコホンと咳払いをしてから口を開く。


「……ベッドはミリーシアが使うってことで問題ないよな。詰めればレンカも一緒に寝られるか?」


「い、いや。私も床で眠らせてもらう。主人と同衾など畏れ多いことだ」


「そんな……私だけベッドを使うなんて、申し訳ないじゃありませんか! 使うのなら恩人であるカイムさんが使ってください!」


「だから鬼畜かよ! 女二人を床に寝かせて、どの面下げて偉そうにベッドで寝ろって言うんだよ!」


 カイムは遠慮をするミリーシアに言い含めるように言葉を重ねる。


「それに今の俺は雇われだ。報酬だって後で貰う約束をしている。男としても、雇用関係としても、ミリーシアを床に転がす選択肢はないんだよ。後はレンカをどうするかという話だ」


「私も床で! お嬢様のベッドに入るなど、無礼なことはできませんから!」


 レンカが強い口調で断言すると、ミリーシアが不服そうに整った柳眉を歪める。

 薔薇色の唇を尖らせ……ポツリとつぶやく。


「つまり……レンカはカイムさんの隣で眠りたいということですね? 床で二人並んで横になりたいと」


「なあっ!? そんなわけないじゃありませんか! どうしてそうなるのですか!?」


「床で寝るというのはそういうことでしょう? この部屋はさほど広くはありませんし、どう頑張っても並んで眠ることになりますよ」


 宿屋の一人部屋は確かに広くはない。

 普通に生活するだけならば問題ないが、床で二人が寝転がるとなると手を広げる余裕もなさそうだ。

 テーブルを隅にどければどうにか並んで眠れなくはない。密着してしまうほど狭いわけでもなかったが……寝返りを打ったら、うっかり身体が重なってしまいかねない危機感はある。


「うっ……そ、それは……」


「あー……困るな。やっぱり」


 朝、目が覚めてすぐ横にレンカの顔があったら……カイムとしてもどうして良いかわからない。その日、一日中気まずい雰囲気になってしまいそうだ。

 レンカも同じ気持ちだったらしく、「うんうん」と頭を抱えて唸っている。

 迷っている様子の従者の姿を見て、ミリーシアはさらに攻勢に出て畳みかけた。


「レンカ、一緒にベッドで寝ましょうか? それとも……私も含めた三人で床に寝転がりましょうか? 私はそれでも構いませんけど……みんなで密着して眠ることになってしまいますよ?」


「…………承知いたしました。ベッドの隅をお借りいたします」


 結局、最終的にはレンカの方が折れることになった。

 赤髪の女騎士は主人のミリーシアと同衾することになり、カイムは床で毛布にくるまって眠ることが決まったのである。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

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