23.同じ宿、同じ部屋
オターリャの町で一泊することになったカイム一行は、すぐに宿を探すことにした。
交易都市である町には数多くの宿が軒を構えている。部屋の一つや二つ、すぐに見つかるだろうと高を括っていたのだが……そこで思わぬ苦戦を強いられてしまう。
「残念だけど……二つも部屋は空いてないなあ。ウチの宿はもう満室だよ」
「む……そうか。ここも空いてないか……」
宿屋の店主の言葉にカイムは肩を落とした。
宿を探し始めて、この店でもう十軒目。まだ部屋が決まる様子はなかった。
すでに夕刻に差しかかる時間帯となっており、宿を決めるには遅い時間帯になっている。
「どうしましょう……このままでは野宿になってしまいますよ?」
「ムウ……私だけならばまだしも、お嬢様を路地裏で寝かせるわけにはいかない」
ミリーシアとレンカも不安そうな顔になっていた。
カイムも野宿は構わないのだが、せめて女性二人の寝床は確保したいところである。
「参ったな……どこか空いている宿があればいいんだが……」
宿の受付前で三人が並んで考え込んでいると、エプロンをつけた少女がスタスタと歩いてきた。
「お父さん、あの部屋だったら泊まれるんじゃない?」
「あの部屋……ああ、あそこが空いていたか!」
「何だ、泊まれる部屋があるのか?」
店主と娘の会話に、カイムは首を傾げて尋ねた。
「一部屋だけなら何とか。ある冒険者さんが前払いでずっと借りてたんだけど、ギルドで依頼を受けて出かけたきり帰ってこなくなっちゃってねえ。今日でちょうど貰っていた宿泊料が切れるんだよなあ」
店主が困ったような顔でアゴヒゲを撫でる。
「だけど……あそこは一人部屋だからな。詰めれば二人ぐらいベッドで寝れなくもないけど、一人は床で寝てもらうことになるよ?」
「ああ、だったら構わないよな。ミリーシアとレンカだけ泊まるといい。俺は外で適当に探すから」
カイムだけならば、宿が見つからずとも路地裏で毛布にくるまって眠ればいい。
後ろの女性二人を振り返って提案するが……ミリーシアがブンブンと胸の前で両手を振った。
「ダメですよ! カイムさんだけ表で寝かせるわけにはいきません! どうか部屋に泊まってください!」
「お嬢様!? カイム殿は男性ですよ!? いくら何でも同室で寝てもらうわけには……」
「男性ですが、それ以前に恩人でもあります! 命を救ってくださった御方を野宿させるなんて、人として許されることではありません!」
ミリーシアが胸を張って言い切った。
彼女の言い分はわかる。わかるのだが……同年代の女性と同じ部屋で寝泊まりするなんて、カイムには経験のないことである。
「俺のことなら気にしなくていいぞ? そもそも、この町に来るまでもテントで夜営してたわけだし……」
「いけません! どうしてもと言うのであれば、私が外で寝ますからカイムさんがベッドで寝てください!」
「……鬼畜かよ。女を野宿させて、ぬくぬくと布団にくるまれるわけねえだろうが」
「だったら、一緒の部屋で寝ましょう? 私が良いと言っているのだから構いませんよね?」
「…………」
ミリーシアが有無を言わせぬ笑顔で追い詰めてくる。
カイムが言い返す言葉もなく押し黙ると、カウンターの向こうにいる中年の店主が手を伸ばして肩を叩いてきた。
「兄ちゃん、女がここまで覚悟を決めてるんだから。男を魅せなよ!」
「……絶対、違う意味で取ってるだろ? 俺達はそういう関係じゃないんだよ」
「大丈夫だ。最初は誰だって童貞の未経験者だからな! オレも母ちゃんと初めて寝た時にはガチガチに緊張したもんだぜ。いざとなったら、女の方から上に乗ってもらって天井のシミでも数えてたらいいんだよ!」
「……天井のシミって何だ?」
理解は全くできないが力強いアドバイスを与えられ、カイムは途方に暮れたように肩を落とした。
無事に宿が決まり、三人同室でのお泊りが決定したのである。
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