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248.最後の戦い

「GYAO!」


『美猴王』がカイムめがけて拳を繰り出してくる。

 何の変哲もないただのパンチだったが、山のような巨体がそれを振るうと十分に脅威。

 まともに命中すれば、全身の骨が粉々に砕けてしまうことだろう。


「【鳳凰】!」


 カイムが足底から勢いよく魔力を噴出させ、拳を回避した。

 空を切った拳であったが……巻き起こった風によって、後方にあった建物の上層階が吹き飛んだ。

 拳が当たったわけではない。カイムのように圧縮魔力を飛ばしたわけでもない。

 拳が起こした風圧だけでレンガで造られた建築物が破壊されたのだ。


「やれやれなパワーだな……戦いが長引くと、余波だけで帝都が消し飛んじまいそうだ」


 万一、仲間達が巻き込まれたら大変である。

 カイムは高度を上昇させ、少しでも周りを巻き込まないような位置を取った。


「GYAAAッ!!!」


 しかし……続けざまに放たれる追撃。

『美猴王』が裂けるほどに大きく口を開いて、炎弾を吐き出してきたのだ。


「危なっ……!」


「GYAAAッ! GYAAAッ! GYAAAAAAAAAッ!」


 炎弾は一発ではない。

 口から次々と飛び出してきて、空を飛んでいるカイムに絶え間なく浴びせかけられる。

 撒き散らされる無数の炎弾はまさしく弾幕。いかにカイムの身体能力と反射神経があっても、避け切れるものではなかった。


「炎は【玄武】でもダメージを殺しきれない。だったら……【霊亀】!」


 カイムはこれまでの旅では使ってこなかった、闘鬼神流のもう一つの防御術を発動させた。

 身体の周囲に圧縮魔力を展開。そして……勢いよく回転させる。

 いくつもの炎弾がカイムの身体に命中するが、高速回転している圧縮魔力によって弾かれる。カイムの身体には火傷の一つもできなかった。


「怒りに任せて暴れ狂うだけの猿には、こんなことはできないだろう?」


 これこそが闘鬼神流・基本の型――【霊亀】。

【玄武】が局所に魔力を集中させることで防御力を高める『硬』の防御術であるのに対して、身体に纏わせた圧縮魔力の回転によって攻撃を受け流す『柔』の防御術だった。

 炎や雷、魔法攻撃を防ぐのであれば、【玄武】よりも【霊亀】の方が向いている。


「フンッ!」


「GYAOッ……!?」


 炎を弾きながら、【鳳凰】によって接近。『美猴王』の顔面を思い切り殴りつけた。

 炎弾を吐いた直後に鼻っ面を打たれて、『美猴王』が一歩二歩と後ずさる。


「GYAAA!」


 だが、怯んだのは一瞬だけである。

 すぐに持ち直して、烈火のごとく瞳でカイムを睨みつけて腕を伸ばしてきた。


「【青龍】!」


 もちろん、カイムは捕まらない。

 掴みかかってきた巨大な手を圧縮魔力の刃によって斬りつける。

 獣毛を生やした掌が裂けて血が飛び散った。


「チッ……!」


 カイムは再び、【霊亀】を発動する。

 身体にかかりそうになる血液を振り払う。

 傍にあった建物にも血がかかるが……ジュッと焼けるような音がして、壁や屋根が腐食して溶けた。


「俺の血とは違うが、コイツの血も厄介な性質を持っているようだな……これだから、『魔王級』は性質(たち)が悪い」


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」


 自分のことを棚に上げて言うカイムに、『美猴王』が絶叫を浴びせかけてくる。

 風圧で吹き飛ばされそうになるのを堪えながら、カイムは口角を吊り上げた。


「元気が良いじゃないか……流石は『毒の女王』と同格の魔王級の怪物。この程度でやられるなんてことはないよな」


 カイムが付けた傷は薄皮一枚を裂いた程度。致命傷には程遠く、すぐに再生してしまった。

 凄まじい自己治癒能力だ。不死の怪物と呼ばれるだけのことはある。

 あの程度で致命傷にならないのはわかっていた。【麒麟】や【青龍】のような基本的な技で倒せる相手であるわけがない。

 ここまではカイムにとっても前哨戦。やけに調子の良い身体の扱いに慣れるための準備運動のようなものである。


「ここからが本番だ。全力でいかせてもらうから覚悟しろよ」


「GYAッ!?」


 カイムの身体から溶岩が噴火するように魔力が噴き出してきて、『美猴王』が驚きに目を見開いた。


「闘鬼神流・秘奥の型――【蚩尤(しゆう)】!」


 全てのチャクラを解放して、潜在能力を超える魔力を引き出した。

 ここからが本当の魔王の喰らい合い。全身全霊での戦いの始まりである。


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