234.ミリーシアのお願い
「カイムさん、少しお願いしたい事があるのですが良いですか?」
宿屋で待機をしていたとある日。
ミリーシアがカイムのところにやってきて、頼み事をしてきた。
ミリーシアは基本的に領主の屋敷で働いており、カイムとは別行動をとっている。
レンカと同じように連日忙しくしていると聞いていたが、今日は休みなのだろうか。
「構わないが……ミリーシアは身体は平気なのか?」
「はい。カイムさんが作ってくれたアロマオイルのおかげですっかり」
浴室でレンカを癒したアロマオイルであったが、好評だったのでミリーシアにも瓶詰めして渡しておいた。
おかげでミリーシアは顔色が良く、さほど疲労が表に出ていなかった。
「それで……頼み事とは?」
「近くの山まで薬草を採りに行きたいんですけど……護衛を頼めますか?」
「薬草? どうしてまた?」
「ランスお兄様の治療に必要なんです」
「ああ……なるほど」
カイムがわずかに顔を強張らせる。
ランスはアーサーを倒すべく、自爆覚悟で銃の斉射を受けている。
銃弾に塗られていた毒の後遺症に苦しんでおり、現在も寝込んでいた。
「そこまで悪いのか……責任を感じるな」
ランスを撃ち抜いた銃弾に塗ってあったのは、カイムが生み出した毒である。
ランス本人から頼まれて渡したものだ。
罪悪感など抱く義務はないのだが……それでも、ランスの容態が芳しくないと聞くと、気まずい心境になってしまう。
「薬草があったら治るのか?」
「確実とは言えませんが……かなり回復すると思います」
ミリーシアが説明を始める。
「ランスお兄様は複数種類の毒に冒されており、現在、順番に解毒を試みています。大部分の毒を治癒することはできたのですが……特に酷い症状の改善のために、『聖光草』という薬草が必要なんです」
「『聖光草』……聞いた名前だな。確か、空気の薄い高所にしか生えない植物じゃなかったか?」
カイムが『毒の女王』の知識を引っ張り出す。
聖光草は高い山の上などに生え、より太陽に近い位置で光を受けることで育つ植物だ。
「聖光草を採取に行くのはもちろん構わないが……あの草はとても傷みやすい。採取してから一時間もすれば枯れてしまい、効能を失ってしまうんじゃなかったか?」
「博識ですね。その通りです」
薬学の知識を披露するカイムに、ミリーシアが少しだけ驚いた表情になる。
「ただ……実を言いますと、聖光草を採取してから絶えず神聖術で治癒をかけ続けることで、劣化を防ぐことができるんです」
「ああ、そうなのか……それじゃあ、俺が一人で登山をしても意味ないか」
薬草を採取するだけならカイムだけでも可能だが、神聖術が必要となればミリーシアを連れていくしかない。
護衛というのは、そういう意味だったのか。
「わかった。付き合おう……出発は明日で良いか?」
「いえ……できれば、本日にでも」
「今から? 日が暮れて、夜になっちまうぞ?」
現在は昼過ぎの時間帯。
山に登っているうちに、夜になってしまうだろう。
「聖光草は朝日を浴びている瞬間にもっとも効能が高くなるんです。今から山登りをして、夜明けと同時に採取したいと思います」
「そこまでは知らなかったな……なるほど、了解した」
今日からとなると、ティーやロズベット、リコスは連れていけない。
ティーは食材の調達で出かけており、ロズベットとリコスは街にフラフラと出ていっていおり居場所がわからない。
忙しいレンカは論外。久しぶりにミリーシアとの二人きりである。
「はい、登山道具などを運んでいただくことになりますけど……構いませんか?」
「アイテムバッグがあるから問題ない。さっさと出発しよう」
カイムが頷いて、二人きりの登山を了承した。
事前に用意してくれてあったテントや食料などの登山道具をアイテムバッグに入れて、すぐにベーウィックを出たのであった。




