233.女騎士レンカは入浴中
「ハフウ……やはり、お風呂は良い……」
湯船に浸かって、レンカがほっこりと溜息を吐いた。
広々とした浴室。十人以上も入れそうな浴槽は二人の貸し切り状態。
湯気に包まれたその空間にはレンカとカイムしかいなかった。
「昼間から風呂とは贅沢なものだな」
レンカと同じく、湯船に浸かったカイムが言う。
せっかく広い浴槽だというのに、二人は寄り添うようにして入浴している。
カイムがレンカの背中を抱きしめるようにしており、その気になれば彼女の胸も脚も好きにできる格好だった。
「ずっと入れていなかったからな……本当に疲れが取れて溶けてしまいそうだ……」
レンカが溜息混じりに言う。
普段は事あるごとに発情しているマゾヒストで雌犬のレンカであったが、今日は本当に疲れているらしい。
いつものようにカイムに尻を叩くようにねだることもなく、カイムの背中に寄りかかって脱力していた。
「本気で疲れているな……」
「ああ……そうだな……」
「フム……」
カイムは少しだけ、思案する。
ここまで疲労しているレンカは珍しい。
働き者の彼女をどうにかして労ってあげたいものだが……何か、良い方法はないだろうか。
「ああ、そうだ」
「ンッ……カイム殿?」
「マッサージだ。大人しくしていろよ」
カイムが後ろからレンカの肩を掴み、指で筋肉をもみほぐす。
「硬いな……ムチャクチャ凝ってるじゃないか」
「ンンッ……あ、あんっ……!」
レンカの肩はガッチリと硬くなっており、まるで石でも掴んでいるようだ。
忙しく働いているというのもあるが、普段から剣を振り回しているのも理由の一つだろう。
「いや……一番の理由はこれか。随分と膨らみやがって」
カイムがレンカの胸部に目を向けた。
美貌の女騎士の胸はたわわに実っており、湯の浮力によってプカプカと浮かんでいる。
これだけの重りをぶら下げているのだ。それはもう肩も凝ることだろう。
「ハア……あん、やっ、あ……フウ、フウ……ンンッ、強い……!」
カイムの手が動くたびに艶やかな声を漏らしているレンカであったが、決して卑猥なことをされているわけではない。ただ、肩をマッサージされているだけである。
それでも、何も知らない人間が浴室の外でこの声を聴いていたら、風呂に入りながらエッチなことをしていると勘違いするに違いない。
「ここまで凝っているのなら、本格的にやった方が良いな……レンカ、ちょっとそこで寝ろ」
「アッ……!」
カイムがレンカを浴槽から出して、うつ伏せで床に寝かせる。
広々とした浴室は横になって手足を伸ばしても、それでもまた余裕があった。
「今日は全力でサービスしてやる。そのまま動くなよ」
「アッ……!」
レンカの背中に粘性の液体が流れ落ちる。
ローション……ではなく、それはアロマオイルのようなものだった。
「毒と薬は紙一重。やろうと思えば、こういう物だって作れるさ」
それはカイムが毒の魔力で作ったアロマオイル。あるいは『薬湯』などと呼ばれるものである。
ワイバーン退治の際に身に着けた繊細な毒操作によって、レンカの身体を傷つけることなく癒す毒を生成したのだ。
「これは……良い匂いがして、身体に沁み込むようで……ヤンッ!」
レンカがビクビクと身体を跳ねさせる。
それでも顔に苦痛はない。心地良さそうに緩めており、先ほどよりもずっと柔らかく血行の良い顔つきをしている。
「ダメ押しだ。このままマッサージをしてやる」
「んはうっ!」
カイムがマッサージを再開させる。
首を、肩を、背中を、腰を……全身のあらゆる場所を揉み解していき、アロマオイルを練り込んでいく。
「んはあ……う、上手い……カイム殿、どこでこんな技術を……!」
「俺の技じゃないけどな」
それもまた『毒の女王』の記憶にあった技術。
彼女がまだ人類の敵となる以前、大切だった誰かにしてあげたマッサージ。
最終的には全ての人間に裏切られて『魔王級』となってしまったが、彼女にも誰かと一緒に歩んできた時間が確かにあったのだ。
「フンッ……!」
「あ、ああ、アアアアアアアアアアアアアアッ……!」
レンカが身体を背中をのけぞらせて、甘い声を漏らした。
「クウッ……」
そして……そのまま脱力して、意識を失ってしまった。
「おい、レンカ?」
「スウ……スウ……」
「寝てるだけかよ……」
「カイム殿……はん……」
「やれやれ……本当に働きすぎだ。あまり無理するなよ」
「ンッ……」
安心しきった表情で眠るレンカに、カイムが呆れた様子で肩をすくめた。
年上だというのに……こうして眠る姿はまるで子供のようである。
レンカが眠っていた時間は一時間に満たない短い間だったが、目を覚ました時にはスッキリと明るい表情になっていた。
カイムのアロマオイルにはポーションのような治癒効果があったのだろう。
短時間で十分に疲労回復したレンカはその後も励んで、テキパキと仕事を片付けていったのであった。




