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231.尊敬できる悪

「グオー、グオー……」


「ガー……ガー……」


 カイムとティーが砦の中に踏み込むと、あちこちで盗賊が寝息を立てていた。

 睡眠ガスをたっぷりと嗅いだ彼らが簡単に目を覚ますことはない。朝まで眠っていることだろう。

 彼らの装備は見覚えがある物。先の内乱で、敵兵士が身に着けていた装備である。


「敗残兵に間違いないな」


「グッスリ寝ていますわ。この人達、どうしますの?」


「どうするって……こうするさ」


「グギャアッ……」


 カイムが足を上げて、廊下で寝ていた盗賊の頭を踏み潰した。

 頭蓋骨が簡単に砕けて、脳の残骸と血液が辺り一面に散らばった。


「捕虜として連れて帰るのは面倒だ。飯代だってかかるだろうし……駆除しておくのが正解だろう」


 カイムの言葉には微塵の情けもなかった。

 相手は盗賊。人を殺し、攫い、奪っていく害獣のようなもの。

 カイムは彼らのことを人間としてみなしてはおらず、生かしたまま捕まえていくなどという面倒事をするつもりはなかった。


「なるほど、それもそうですわ」


「ギャアッ……」


 ティーもカイムに倣って、眠っている盗賊を殺していった。

 二人は砦の中にいる盗賊に片っ端からトドメを刺しつつ、砦の奥へと入っていく。


「この奥から女性の臭いがしますの。たぶん、攫われてきた人がいるですわ」


「そうか、それは結構」


「ただ……血の臭いもしますわ。昔のものではない新鮮な臭いですの」


「ほう?」


 怪我人でもいるのだろうか。

 カイムが砦の最奥にあった扉を蹴り開けた。


「ハア、ハア……テメエらが侵入者か……!」


 奥の部屋には、睡眠ガスで眠っていない人間がいた。

 屈強な身体つきの男性であり、扉を開けたカイムを睨みつけてくる。


「お? 起きている奴がいたな。少し驚いたぞ」


 カイムが目を細めて、男の姿を観察する。

 スキンヘッドの男は半裸の姿をしており、右手に一本の剣を持っている。

 そして、左側の腹部に刺し傷を負っていた。血が流れ出て、床に小さな水溜りを作っている。

 床には眠っている女の姿もあった。おそらく、拉致された村娘だろう。

 男に凌辱されていた最中だったのか、村娘の方は完全な裸で、両腕には金属製の枷まで付けられている。


「なるほど……自分で刺したのか。なかなか、思い切りが良いじゃないか」


 カイムが感心したようにつぶやく。

 おそらく、この男は睡眠ガスが流し込まれていることに気がついて、眠らないように自分の腹を刺したのだ。

 痛みによってガスの作用を堪えて、カイム達が入ってくるのを待ち構えていたのである。


「頭では考えついても、なかなか実行には移せないよな……名乗れ、お前は何者だ?」


「……『クロスソード傭兵団』、団長のギベルンズだ」


 意外なことに、男はあっさりと自分の名前を明かした。

 荒い息遣いで呼吸をしながら、射殺さんばかりに睨みつけたまま。


「クロスソード……悪いな。俺は傭兵には詳しくないんだ。有名なのか?」


「知るかよ……クソッ、こんなはずじゃなかったのに、どうして俺様がこんな目に……!」


 男……ギベルンズが顔面を歪めて、悪態をつく。


「上手いこと有利な側に付けたと思ったのに……あのクソ皇子、偉そうなことを言ってあっさり敗走しやがって! おかげで、こっちも賊軍だ……せっかく、町で略奪できると思ったのに、上手いこと敵将の首でも獲れば、立身出世も思うがままだったってのによお……!」


「やっぱり、アーサーに雇われた傭兵だったか……残念だったな。勝ち馬に乗れなくて」


「クソクソクソがあッ! おまけに、盗賊の真似までする羽目になって、こんなところで殺られるだと!? 俺様が何したって言うんだよ! ふざけんなクソ共があ!」


「いや、盗賊してるだろ。金品盗んで、娘を攫ってるじゃねえか」


「クソガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 カイムが淡々と指摘するが、ギベルンズは聞く耳を持たない。

 ひたすら『クソ』と叫び続けて、左手で床に寝ていた女を持ち上げて掲げた。


「近づくんじゃねえ! 少しでも近寄ってきたら、この女も道ずれにしてやるぞお!」


「ガウ……とても格好悪いことをしてますの」


「ああ、格好悪いな。ゲスすぎて感動すら覚える」


 ティーとカイムが顔を見合わせて、感心したような表情になる。

 いくら盗賊。犯罪者の悪党であるとはいえ、ここまでプライドを捨てて恥さらしな行動をとることができるのか。


「ある意味ではすごい行動力だな……そこまで悪に徹することができるのは逆に立派だぞ」


「褒めてんじゃねえよ! 馬鹿にしてんのか!?」


「そりゃあ、まあな。馬鹿にするだろ。馬鹿なことをしてる奴が目の前にいたら」


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ! チクショウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 煽るような言葉の連発に、ギベルンズがますます激昂して怒鳴り散らす。


「そこまで虚仮にするなら殺ってやろうじゃねえか! この女の首、へし折ってや……」


「【蛇】」


「ら、あ……?」


 ギベルンズの身体から力が抜ける。

 人質にしていた村娘を落とすが、ティーが素早くキャッチして抱きかかえた。

 ギベルンズの巨体が傾いで、そのまま砦の床に膝をつく。

 倒れることまでは堪えたようだが……彼の手足は震えており、まるで力が入っていないように見える。


「なに……が……」


「教える意味はないだろ。どうせ死ぬんだからよ」


 カイムがギベルンズを見下ろして、冷たく告げた。

 カイムが繰り出したのは闘鬼神流の技の一つ……【蛇】である。

 圧縮魔力を触手のように伸ばして、敵に喰らいつかせる技。本来は防御技である【玄武】に付随したカウンター技として使うことが多い。

 威力はそこまで高くはないものの……カイムの毒の魔力と組み合わせることで、一撃で相手を無力化することができる。


「ク……ソ、が……」


「じゃあな……それと、クソはお前だ」


 カイムが回し蹴りを放ち、ギベルンズの首から上を刈り取った。


 それなりに傭兵としては名を挙げた男であったが……所詮は盗賊。その程度でしかない相手だった。

 カイムとティーはかすり傷の一つも負うことはなく、人質を救出して帰還したのであった。


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