225.リコスとのデート
ランスが回復するまでのしばしの休息。
その日、カイムは珍しくリコスと二人で町に外出した。
ベーウィックの町は交易都市。
船で他国と交流し、売買を行っている貿易の中心地である。
ランスとアーサーがぶつかる以前は戦時中ということもあって緊張感に包まれていたが、ランスが勝利したことによって町は活気を取り戻している。
大通りにはいくつもの屋台が並んでおり、『戦勝記念!』と銘打って、大安売りのセールまで開かれていた。
「くう、くう」
「お前と二人で出かけるなんて初めてかもしれないな……何というか、変な気分だよ」
港町ベーウィックの大通りを、カイムはリコスと一緒に歩いていた。
『一緒に』とはいったものの、実際に歩いているのはカイムだけである。カイムはリコスを肩の上に乗せて肩車をしていた。
幼女を肩に乗せて歩く姿は休日のお父さん、あるいは年の離れたお兄さんだろうか。
すれちがう通行人も微笑ましそうに笑っている。
「……絶妙に恥ずかしいな。何なんだ、この感情は」
「くう?」
人生で経験したことのない羞恥心を味わっているカイムに、リコスが不思議そうに首を傾げている。
しかし、すぐにリコスは通りに並んでいる屋台の一つを指差して、興奮した様子で鳴く。
「くう、くうっ!」
「何だよ、急に……あの店が気になるのか?」
その屋台はお菓子屋のようだった。
カイムが肩車をしたまま近づくと、甘い砂糖の匂いが鼻をくすぐってくる。
「いらっしゃい。ワタアメ、食ってくかい?」
「ワタアメ……聞かない名だな。食い物で良いんだよな?」
「ああ、東国の菓子だよ。この国ではちょっと珍しいかな?」
威勢の良い店主が朗らかに笑いながら、屋台に置かれた装置の中に白い粒を流し込む。
すると……装置の中央から雲のような白い物体がゆっくりと出現してくる。
「おおっ!?」
「くうっ!?」
カイムとリコスが同時に驚きの声を上げた。
二人の視線を浴びながら、店主が棒を使って器用に雲を掬い上げ……くるくると巻いて大きな塊を形作る。
「はいよ。ワタアメ一丁。銀貨一枚で良いよ」
「これ、は……どういう理屈だ? 何で、雲がこの中から……?」
「くう……?」
「まあまあ、食ってみればわかるよ。甘くて美味いぞ」
「…………」
カイムは半信半疑といった顔でワタアメを受け取り、一部を千切った。
思いのほかにベタベタしている。リコスと一緒に口に運ぶと……途端に甘味が口の中に広がった。
「甘っ……!」
「くう、くうん」
リコスも思いのほか甘い味わいに顔を綻ばせている。
自分の顔ほどの大きさがあるワタアメに顔を突っ込み、モフモフと齧っていた。
「もしかして、これは砂糖を膨らませているのか……さっき、この装置に入れたのは砂糖の粒か……?」
「おお、御名答だ。ワタアメは砂糖を膨らませた菓子だよ」
「面白い物を作る奴がいたものだな。東国の菓子と言っていたか……」
改めて、外国の文化というのは面白い。
カイムが使う闘鬼神流もまた東から伝わってきた格闘術だという話だし、外国にはまだまだ未知の文化や景色があるのだろう。
(ミリーシアの問題が残らず片付いたら、改めて世界一周の旅なんて面白そうだな……)
「くう……」
「あ、顔ベトベトじゃねえか!」
ワタアメに顔から突っ込んだせいで、リコスの顔が酷いことになっていた。
緑色の髪の毛にまでワタアメの破片がベッタリと付いており、愛らしい顔が台無しである。
「まったく、何をやっていやがる……」
「ほれ、これを使うが良いぞ」
「ああ、すまない」
誰かがハンカチを手渡してくれた。
素直に受け取って、それでリコスの顔を拭いてやる。
「まったく……菓子くらい落ち着いて食えよな」
「くう、くうん」
「はいはい。ほら、綺麗になった」
やがて、リコスの顔についた砂糖のべたつきを取ることに成功した。
カイムは満足して頷き、ハンカチを持ち主に返却する。
「悪いな、助かった。何か礼に…………あ?」
「クウッ!」
カイムが遅れて気がついて、リコスも警戒から吠えた。
「構わぬよ。これくらい、気にするでないわ」
ハンカチを受け取って、懐にしまった女性……彼女は二人が見知った相手だった。
ゴシックロリータのドレスを身に着け、黒と朱の髪をツインテールにしている。
「また会ったのう。可愛いやや子、そして小僧よ」
彼女の名前は『不死蝶』。
かつてリコスと戦った最強最古の殺し屋である。




