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221.決着ー竜虎相搏

「【筋力強化(ストレングスアップ)】【耐久強化(ガードアップ)】【敏捷強化(スピードアップ)】」


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 マーリンから補助魔法を受けて、ガウェインが吼える。

 自身の限界を超える力を引き出してカイムに襲いかかった。


「迅い……!」


 凄まじい速度で迫る槍を前にカイムが息を巻いた。

 それでも、腕に集中させた圧縮魔力によって痛烈な一撃を受け止める。


「【玄武】!」


 闘鬼神流・基本の型――【玄武】

 防御に特化した技。そして……そこから繋がるカウンターの【蛇】。

 圧縮魔力が蛇のように伸びて、ガウェインの首に喰らいつく。


「温いわあ!」


「ッ……!」


 だが……効かない。

 ガウェインはそのまま槍を振り抜いて、カイムを吹っ飛ばす。

 天幕を破って外まで飛ばされるカイム。

 敵の攻撃はまだ終わってはいない。ガウェインが重厚な黒鎧を身に着けているとは思えない速度でカイムに追撃を仕掛けてきた。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


「なるほど……シンプルに強いな」


 カイムがつぶやく。

 ガウェインの戦いぶりにはこれといった特徴はない。特殊な技を使っているわけでもなく、奇をてらっているわけでもない。

 ただ、純粋に強い。強く、速く、重い……シンプルなフィジカルの高さこそが黒騎士ガウェインの強みだった。


「潰れろ!」


 嵐のように繰り出される斬撃と打撃。

 槍の穂先と石突が激しく回転しながらカイムを叩き潰そうとしてくる。

 カイムは目を細めて攻撃を避け、受け、いなしていった。


「これが我が生涯、最期の戦いぞ……アーサー殿下を皇帝とするため、貴様には確実にここで死んでもらう!」


「死ねといわれて『はい、わかりました』と頷けるほどお人好しじゃねえよ……殺すのはこっちの方だ!」


「ッ……!」


 カイムが圧縮魔力を纏った拳で相手の腹を殴打する。

 鎧の上からの一撃。そこからさらに衝撃波を撃ち込んだ。


「【応龍】!」


 闘鬼神流・基本の型――【応龍】

 発剄によって相手の体内に魔力の衝撃波を叩き込む技。鎧による防御を貫通して、内側で魔力が爆散する。


「グフッ……」


 兜の下から血が噴き出す。

 どうやら、内臓がやられて吐血したようだ。

 ガウェインの脚がわずかにふらつくが……膝をつくことはしない。

 そのまま槍を構えて、兜越しに激しい殺意をぶつけてくる。


「まだ、だ……!」


「なるほど……まさに必死というわけか……」


 ガウェインが受けているダメージは衝撃波によるものだけではない。カイムの猛毒の魔力を受けているのだ。

 もはや身体の内側はボロボロ。身じろぎしただけでも体内から肉体が壊れようとしているだろうに、それでも槍を振ろうとしている。

 まさに必死。まさしく決死。主君であるアーサーを皇帝にするためにここで命を捨てようとしているのだ。


「いいだろう……その覚悟に応えてやるよ」


 カイムの身体からこれまでを越える膨大な魔力が噴き上がる。

 火山から溶岩が噴き出すような莫大なエネルギーを身に纏い、拳を構えた。


「闘鬼神流・秘奥の型――【蚩尤】」


 カイムが使うことができる最高の技である。

 正直、この奥義を使う必要があるかと思えばそうではない。おそらく、放っておいてもガウェインは死ぬ……時間稼ぎをすれば良いはずだった。

 それでもカイムがその技を使ったのは忠義の騎士への敬意である。


「……感謝する」


 カイムの意図を察したのか……ガウェインが小さく言う。


「いいから、さっさと来い」


「そうしよう……!」


 ガウェインが地面を蹴った。

 槍を最上段に振り上げて……全身全霊、命の全てを込めた一撃を叩きつけようとする。


「フッ!」


「グハッ……」


 だが……それよりも先にカイムが拳を振り抜いた。

 圧倒的なパワーによって黒鎧の胸部が貫かれ、ガウェインの心臓を射貫く。

 ガウェインの巨体が前のめりになって倒れて……頭部に付けていたフルフェイスの兜がカランコロンと音を立てて転がっていく。

 兜の下から出てきたのは年老いた老兵の顔。その表情はどこか満足そうだった。


「見事だ。悪くなかったぞ」


 カイムが頬を撫でる。そこには小さな裂傷が刻まれていた。

 ガウェインの最期の一撃……それは浅くともカイムの身体をわずかに削っていたのである。


「あらあら……負けちゃったのねえ」


 戦いが終わったのを見て……マーリンが進み出てきた。

 美貌の大魔術師が倒れているガウェインの亡骸に近づいて膝をつく。

 そして……ガウェインの身体を仰向けにして、唇にキスを落とした。


「まあ、それなりの結果といえるわね……貴方と同じ場所で死ぬために今日まで生きてきたから」


「…………」


 眉を顰めて見守るカイムの視線の先……マーリンの肉体が塵となって消えていく。

 カイムは知りようもないことだが、マーリンは本来であればとうに寿命で死んでいる年齢である。

 魔法によって延命を図っていたのだが、魔力が底をついたことによって命の灯も消えようとしているのだ。


「愛しているわよ、ガウェイン……一緒に死ねて良かったわ」


 そんな言葉を遺して……マーリンは完全に塵となって消えた。

 二人の関係性はもはや知りようがない。それでも……どちらも本懐を遂げて落命したのだと信じたいものである。


 アーサー・ガーネットの側近である『双翼』の二人……彼らは同じ日、同じ戦場で命を落とした。

 主君であるアーサーは強制的に逃がされてどこかに消えた。おそらく、行き先は本拠地である帝都だろう。

 総大将を失った西軍は瓦解。敗走していくことになる。


 ベータ平原の戦いを制したのはランス・ガーネット。

 終わってみれば、不利だったはずの第二皇子の圧勝によって幕を下ろしたのであった。


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