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217.決着ー詐謀偽計

 カイムの仲間達が奮戦を繰り広げる一方。

 西軍の総大将であるアーサーは青狼騎士団を蹴散らし、真っすぐに東軍の本陣へと直進していた。


「殿下、右翼と左翼がやられたみたいよお。このままだと囲まれるわねえ」


 馬を駆って自ら敵地に乗り込もうとするアーサーに横からマーリンが報告した。

 右翼にいた赤虎騎士団、左翼にいた貴族の領軍はいずれも敗走しつつある。このままでは、彼らを撃退した東軍の兵士が左右からアーサーを包囲しにかかるだろう。


「弟子達とも連絡が取れないし……撤退をするのなら今でしょうね」


「冗談を言うな。ようやく楽しくなってきたところだ」


 マーリンの進言を聞いたアーサーがニヤリと笑う。

 好戦的な笑みは追い詰められた人間のものではない。逆境の中にいてなおも血を求める飢えた獣の顔である。


「覇者は血まみれの戦場からしか生まれない。この窮地こそが我が大陸の覇者となるための産屋であると見た! 全ての危機を喰い破って高々と勝利の産声を上げてやろうではないか!」


「ハア、私は別に良いけど……この先にランス殿下がいるとは限らないわよお。どう考えても怪し過ぎるもの」


 マーリンが肩をすくめる。

 ここを突破した先にあるのは東軍の本陣……そこにランスがいるはず。

 しかし、そう上手くいくだろうか。ランスはのんびりとした性格のわりに知恵が回る男だ。何もせずに座して本陣に待機しているなどあるのだろうか?


「もしかすると……あの本陣は見せかけで空っぽかもしれないわよ?」


「可能性は高いな。我が弟のことだ、きっと驚かせてくれることだろう」


 アーサーがサプライズパーティーでも期待しているかのように高揚した表情になる。

 この先に罠があるかもしれない……いや、確実にある。

 それを確信していながら、弟がどんな罠を仕掛けてくるのか心待ちにしているようだ。


「どんな罠を仕掛けてきたとしても叩き潰す。そして、ランスの首を獲る……やるべきことは変わらない。それだけだ」


「馬鹿じゃないのって言っても良いかしら?」


「口が過ぎるぞ。女狐め」


 主君にあるまじき言葉を吐いたマーリンを咎めたのはアーサーではなく、反対隣で馬を駆っている黒騎士ガウェインである。


「そもそも……殿下の危機管理は貴様の仕事であろう。得意の未来予知はどうした?」


 マーリンは未来予知の能力を持った大魔術師である。

 だが……今回の戦場ではどうにもその力が振るわない。

 初撃のカイムの魔法を見抜いたまでは良いが、そこから先は役に立たない木偶となっていた。


「残念だけどカオスが……不確定因子が多過ぎて、ラプラスによる数学的計算が間に合わないわあ」


 マーリンが唇を尖らせる。

 マーリンの未来予知は神から授かった託宣などではなく、あらゆる事象を数学的計算することで未来に生じうる事象を観測するというものだ。

 この予知能力はカオスという可能性未知数の要因が絡むことで乱されてしまう。


「『毒の女王』だけじゃない……もっともっと、たくさんのカオスが戦場に溢れている。一朝一夕じゃなくて、随分と前からカオスをばら撒いている人間がいるわあ」


「それがランスだというのか……だとすれば、やはり面白い」


 再び、アーサーが口を開いた。

 制止のための説明であったが、それはかえって闘志の火に油を注いでしまったらしい。


「このまま突っ込むぞ。総員、援護せよ!」


「「「「ハッ!」」」」」


 一緒に着いてきた兵士達に指示を飛ばす。

 兵士達が邪魔な敵を抑えて、アーサーを敵本陣へと送り出す。


「突撃!」


 そして……いよいよ、その時がやってきた。

 アーサーが東軍の本拠地へと到着した。目と鼻の先に大きな天幕が設置されている。


「これみよがしに誘ってくれる……良いだろう、乗ってやる!」


 それが罠であると承知でアーサーが突っ込む。槍で天幕の布を破って中に突入した。

 広く大きな天幕の内部、そこに待ち構えていたものは……。


「やあ、来たね。アーサー兄さん」


 テーブルについてのんびりとティーカップを傾けているランス・ガーネットの姿だった。


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