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211.ティーの戦いー三者鼎立

 戦場の右翼側。そこでも熾烈な戦いが巻き起こっていた。


「いくぞ! アーサー殿下に遅れるな!」


「敵を叩き潰せ! 突破するぞ!」


 西軍。燃える炎のような戦意で敵に突撃しているのは赤虎騎士団である。

 赤虎騎士団に所属しているのは子爵以下の下級貴族。その戦いぶりには高位貴族のような優美さはないものの、辺境の領地で重ねた実戦経験は銀鷹騎士団に勝るとも劣らない。

 士気も非常に高く、果敢に敵に斬りかかっていく。


「防ぎなさい。敵を止めるのです!」


 東軍。敵の猛威に手を焼いているのは黒竜騎士団である。

 異国人や傭兵によって構成された軍団であり、先日、軍団長のデバルダンが兵士の半数を引きつれて脱退したばかり。現在は副団長のイッカクが指揮を執っていた。

 ランスが他国から引き入れた傭兵によって穴を埋めてはいるものの……やはり急ごしらえ感は拭えない。赤虎騎士団の攻撃を防ぐのが精いっぱいとなっていた。


「イッカク副団長! 敵の勢いが止まりません!」


「弱音を吐く暇があるなら剣を振りなさい! そして、私のことは『団長』と呼びなさい!」


 情けない部下を一喝しつつ、イッカクもまた前線で槍を振るう。

 獣人であるイッカクは非常に身体能力が高く、三メートルもの長さの槍が振るわれるたびに何人もの敵兵が吹っ飛んでいく。

 だが……そんなイッカクの力量をもってしても、やはり敵の勢いは強い。止めきれなかった。


「ヤアッですの!」


「ギャアッ!」


 だが……そんな色濃い敗色の中で上がる高い声。

 戦場に突如として現れた新たな戦士の姿に、敵味方両方が唖然とした顔になる。


「なっ……メイドだと!?」


 戦場に飛び込んできて西軍の兵士を打ち倒したのはメイド服を着た女性……ホワイトタイガーの獣人であるティーだった。

 ティーは凄まじいスピードで三節棍を振り回して、次々と敵兵を叩きのめしていく。


「がう、助太刀に来ましたの」


「貴女……強いですね」


 イッカクが記憶を漁りながら言う。

 ティーというメイドと面識はなかったが、軍議の際にミリーシアの後ろにいたのは目にしている。とりあえずは味方であると判断したらしい。


「敵は強いです。多いです。問題ないですか?」


「問題ありませんわ。全員、ぶっ殺ですの」


「それでは、結構」


 そんな短い会話を終えて、二人は敵兵に向き直る。

 同じ獣人の女性同士、どこか通じるものでもあるのだろうか。会話は端的であったがそれで十分なようだった。


「ハアッ!」


「えいっですの!」


 二人を中心に黒竜騎士団が反撃に転ずる。

 ティー一人が加わったくらいで何が変わるという話だが……戦場には流れというものがある。

 一気呵成に攻めたてていたところに急に現れたメイド服の女。戦意の火に水を注されたことが切っ掛けとなり、潮流の向きが変わったらしい。


「おい、お前達! 女二人に何を手こずっているんだ!」


 だが……そんな中で一人の男が進み出てきた。

 真っ赤な鎧、燃えるように逆立つ赤髪を持った男である。


「情けないところを見せるんじゃない! 父祖に恥をかかせるつもりか!」


「アレは……?」


「赤虎騎士団団長……ディアグー・カース!」


 イッカクが唸るようにその名を呼んだ。


 ディアグー・カース。赤虎騎士団の団長。

 カース子爵家の長男。長子であるにもかかわらず母親が妾であったために家を継ぐことができず、騎士団に入団したという経緯を持つ人物である。

 勇猛果敢な性格、嵐のような戦いぶりからアーサーに気に入られて、短期間で団長にまで出世していた。


「銀鷹の連中に後れを取るな! ここが立身出世の大チャンスだ。我らが君にみっともないところを見せるなよ!」


 ディアグーが叫んだ。

 赤虎騎士団は下位貴族出身者の集まり。高位貴族出身の騎士である銀鷹騎士団に対して、並々ならぬ対抗心を抱いていた。

 この戦いで活躍すれば……例えば、銀鷹騎士団を出し抜いてランスを討ち取るような戦果を挙げることができれば、銀鷹の鼻を明かすことができるかもしれない。

 そんな強い対抗意識もディアグー達のモチベーションになっていた。


「フンッ!」


「ッ……!」


 ディアグーが手に持ったハルバートを振り下ろした。

 咄嗟に飛び退いたティーであったが……足元の地面が爆散する。もう少し回避が遅ければ、ティーの身体も同じようになっていたかもしれない。


「ガウッ! コイツ、強いですの!」


「当然です。実力で赤虎騎士団のトップにまでなった男ですから」


 唸るティーに、イッカクが横から注釈する。


「あのハルバートを用いて、敵国の特殊部隊百名をたった一人で壊滅させた人物です。油断をしないように」


「ディアグー団長に続け! 俺達も突っ込むぞ!」


 ディアグーの奮戦によって薄まっていた戦意に再び火が点いた。赤虎騎士団が勢いを取り戻す。


「いくぞ! 敵を駆逐しろ!」


「…………!」


 先頭に立って突っ込んでくるディアグーにティーが身構える。

 だが……そこで敵にとっても、味方にとっても、予想外の事態が勃発した。


「グゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


「は……」


 突如として、地面の中から何かが飛び出してきた。

 現れた巨体がディアグーの背中に鋭い爪を振り下ろし、その身体を引き裂いた。


「ガハッ……」


 ディアグーが大量の血を撒き散らしながら倒れる。

 かなりの猛者であるはずの英傑が不意打ちによってあっさりとやられてしまった。


「どいつもこいつも俺を虚仮にしやがって! 鏖殺だ、皆殺しにしてやる!」


「デバルダン団長……!」


 地面から飛び出してきた巨体の男に、イッカクが呆然とした様子でつぶやいた。


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