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209.レンカの戦いー罵詈雑言

 戦場の中央部分では二つの騎士団がぶつかっていた。

 東軍側は青狼騎士団、西軍側は銀鷹騎士団。いずれも二人の皇子の主力である部隊である。


「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


「射て! 射て!」


「突撃! 正面突破せよ!」


 両軍は互角。どちらも一歩も引くことなく剣と槍をぶつけ合わせていた。

 数では西軍が勝っているものの、初撃の毒ガス攻撃によって多少は怯んでいるようだ。

 アーサーの喝によって士気を取り戻しているが……それでも、勢いでは青狼騎士団に分があった。


「皆、堪えろ! 今が正念場だぞ!」


 互角の戦いに貢献している人間の一人はレンカである。

 レンカは女性ながらに果敢に剣を振るっており、西軍の兵士を斬り伏せていた。


「クッ……女のくせに生意気な……!」


「我々を誰だと思っている! 私はシンバル子爵家が三男……」


「鬱陶しい!」


 レンカが魔力を纏わせた剣を振るうと、名乗りを上げようとしていた敵の首が宙に舞った。


「その女に斬られている男が偉そうなことを吠えるな! 女々しいぞ!」


「なっ……卑怯な!」


「名乗りの途中で攻撃するなど戦場の礼儀を知らぬのか!」


 不意打ちで敵を討ったレンカに、西軍の騎士達がキャンキャンと犬のように喚く。

 銀鷹騎士団は帝国にある五つの軍団の一つ。高位貴族出身者によって構成されている。

 礼儀や作法を重んじる彼らにとって、不意打ちというのは何よりも許しがたい行為の一つだった。


「正々堂々なド戦場では何の意味も無い。自分のルールに敵が合わせてくれるとでも思っているのか?」


 浴びせられる侮蔑の言葉に、レンカが冷たい表情で答える。

 以前のレンカであれば礼儀正しくお綺麗な戦い方をしたかもしれない。

 だが……この数ヵ月の経験、魔物やならず者、殺し屋などと戦ったことにより、レンカは戦闘において品性など何の役にも立たないのだと悟っていた。


(一対一の決闘ならばまだしも……敵味方が入り混じる戦場にルールなどない。勝たなければ意味がないのだ)


 負ければ奪われる。一方的に、何もかもを。

 かつて、薬を盛られて盗賊に犯されそうになった時のように……尊厳も誇りも全てを踏みにじられてしまうのだ。

 失うのは自分だけではない。自分の守ろうとしている人だって同じ目に遭うかもしれない。


「私は誇りよりも勝利の方が大切だよ。そんなに清々と戦いたいのであれば部屋の中でチェスボードでも囲んでいると良い」


「この……グアッ!」


「貴様……ギャアッ!」


「ヤアッ!」


 いきり立つ西軍の兵士をレンカはどんどん斬っていく。

 銀鷹騎士団の兵士達は決して弱くはない。むしろ、十分に精鋭といえる。

 だが……カイムの強さに触れたレンカにとって、彼らはもはや強者とは呼べないのだ。


「へえ……驚いた。まさか戦場に花が咲いているとは思わなかった」


 そうして敵兵を倒していると、一人の男が言葉を投げかけてきた。

 馬上で金色の長髪を靡かせている男だ。年齢は二十代後半ほどである。


「……誰だ、貴様は」


「おっと、名乗り遅れて失礼した。私は銀鷹騎士団副団長……スレイン・ティート。薔薇のように美しく強き君よ。よければ名を教えてもらっても構わないかな?」


「レンカだ」


 言いながら、相手が身構える前に斬りかかった。

 これまた不意を突いた一撃であったが……スレインと名乗った騎士は左腕の籠手によって斬撃を受け止める。


「ム……!」


「怖い、怖い……だが、やはり美しい……!」


 レンカの攻撃を弾き飛ばして、スレインが恍惚とした表情で笑む。

 貴公子のような顔立ちから零れた笑顔は絵になるものだったが、不思議とレンカは不快感を覚える。


「真に美しい花は温室では育たない。過酷な環境を生き抜いた花こそが華麗に咲き誇ることができる……君はまさしく戦場に咲く一輪の花。美しき大輪の赤薔薇……ああ、本当に美しい!」


「…………」


 スレインの口上を聞き……レンカはそっと後ずさる。


「何だこの男……気持ち悪い」


 レンカが抱いたのは背中に軟体生物を入れられたような生理的嫌悪である。

 男の言葉一つ一つに鳥肌が立ち、全身の毛穴が総毛立っていくのがわかった。

 レンカが男に対してドン引きするが……


「私は決めた!」


「………………何をだ」


「私は君を妻にする!」


「何故そうなるっ!?」


 レンカが本気で混乱して叫んだ。

 どうして、そんな場所に話が帰結したのかまったく不明である。


「この私がそうと決めたのだから、そうなるのだよ……さあ、この手を取り給え。我が白馬でバージンロードを歩もうじゃないか!」


「死ね!」


 レンカがいつにない暴言を口にして、スレインの喉を刺しにかかった。

 しかし……スレインはそこで初めて左腕の槍を繰り、レンカの刺突を受け流す。


「ッ……!」


「なるほど……愛を勝ち取るためにはやはり戦わなければいけないか。敵と味方に分かれた悲劇のヒーローとヒロインのように……」


 スレインが跨っていた白馬から降りてくる。

 後ろに大きく飛び退いたレンカの前で、優雅な所作で槍を構えた。


「さあ、どこからでもかかってき給え! 君を倒し、力ずくで私の物にしてあげよう!」


「……………………変態だ」


 レンカが自分のことを差し置いてつぶやいた。

 何でこんなことになっているのかは知らないが……このままでは、殺されるよりも大変な目に遭うかもしれない。


「よし、斬ろう」


 レンカは覚悟を決めて、よりいっそうの殺意を込めて剣を握り締めたのであった。


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