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206.開戦ー開口一番

 ガーネット帝国東部。ランスのお膝元であるベーウィックの西側にある平原……ベータ平原。

 広大な平野を舞台として、帝国の歴史上最大の内乱の幕が切って落とされようとしていた。


 東西に並んだ二つの軍隊。東軍側がランス・ガーネット率いる軍勢四万。

 ランスは三つに分けた軍勢を横並びにさせている。『横陣』と呼ばれるもっとも基本的な陣形だった。

 中央に本隊である青狼騎士団、右翼に黒竜騎士団、左翼に貴族の領軍。ランスは後方にある陣地で指揮を執っていた。


 一方、西軍側はアーサー・ガーネット率いる軍勢六万。

 こちらは『魚鱗』の陣形に軍を並べている。いくつかの部隊が東を頂点とした三角形に並べられており、その中央に指揮官であるアーサーの姿があった。

 突進力に優れた陣形ではあるが野戦ではあまり使われない陣形だ。防御力よりも攻撃力に長けており、数で優っていて有利な西軍側があえてとるには適さない。


「まあ、その辺りがアーサー兄さんって感じだよね。自信満々で攻撃的で……安全や手堅さよりも、相手を叩き潰すことを優先させるんだから」


 苦笑混じりに口にしたのは、東軍の後方にある陣地にいるランスだった。

 ランスの傍には側近やカイム達の姿もある。


「こちらはどうにか掻き集めて兵士七万。敵側は十万。なかなかの規模の戦いだよね。これはきっと歴史に残るよ」


「悠長なことを言っている場合ですか……ランスお兄様」


 ミリーシアが口を『へ』の字にした。

 とてもとても呆れた顔をしている。

 周りの臣下の目が無ければ、こんな状況でも暢気な兄に拳骨でもくれてやったかもしれない。


「まあまあ、もっと大差をつけられるかと思っていたけど……たった三万の差で済んだんだから運が良かったよ。あちこちにばら撒いておいたカオスが実を成したのかな?」


「カオス……それは何のことですか?」


「ただの戯言だよ。さあ、それじゃあ早速始めようか」


 ランスが陣地にいる全員に聞こえるようにパンパンッと両手を叩いた。


「みんな、配置についてくれ。アーサー兄さんの性格からしてこっちの準備が完全に整うまでは仕掛けてこないだろうけど……急いで急いで。こっちは事前に準備しておいた防柵とかもあるし、数で負けていても怖がることはないよ。張り切って戦争をしようか」


 ここに来ても、まだランスの口ぶりには緊張感が無い。

 まるでピクニックの準備をしているような口調である。


「ある意味では肝が据わっているといえるんだろうな……これも君主の器なのか?」


 カイムも首を傾げながら自分の配置に移動した。

 圧縮魔力を使って空中に飛び上がり、空から敵軍を見下ろす位置をとる。

 空は晴れ渡っていて皮肉なほどに良い天気だ。まるで天上の神が争う人間を嘲笑っているようである。


「さて……それじゃあ、言われたとおりにデカいのを一発ぶち込むとしようか」


 カイムは冷たい眼差しで敵軍を睥睨した。

 闘鬼神流によって強化された視力が敵軍の中央にいるアーサーの姿を捉える。


「フン……」


「…………」


 鼻を鳴らすカイムをアーサーも見上げている。

 二人の視線が交わり、アーサーがそっと口を開いた。


『覇王を見下ろすな』


 もちろん、声は届かなかったが……アーサーの口はそんな言葉を紡いでいた。


「そういうセリフは勝ってから言えよ。ここで負けたら覇王も覇者も何もないだろうが」


 カイムは凶暴そうに牙を剥いて笑いながら膨大な魔力を練り上げる。

『毒の女王』と一体化したことによって得た紫色の魔力。毒の性質を持ったそれを遠慮なく放出して魔法を発動させた。

 それはかつて、『毒の女王』が一国の軍勢を屠った最凶の魔法。


「紫毒魔法――【獄界(タルタロス)】!」


『毒の王』となってから最大級の一撃。

 死界を具象化したような毒の息吹が濁流となって西軍に襲いかかった。


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