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204.最後の軍議

「さあ、戦いの始まりだぞ! みんな、出陣の準備を整えてくれ!」


 迫りくるアーサーの軍勢。

 敵軍接近の報を受けたランス陣営もまた動き出していた。

 再び開かれる軍議。ベーウィックの町の有力者が一堂に会しており、彼らの前にランスが立って宣言する。


「僕達もこれから打って出るよ。ベーウィックの西にある平原に陣を作って、そこでアーサー兄上を迎え撃つんだ!」


「野戦で戦うのか? この町に籠城した方が有利なんじゃないのか?」


 腕を組んだまま首を傾げたのは軍議に参加しているカイムである。

 急に町にやってきた余所者、おまけに皇女であるミリーシアの恋人という謎の枠に属しているカイムであるが……今ではすっかりこの場に溶け込んでいた。

 決闘によって青狼騎士団の騎士に実力を認められ、『湖の乙女』の魔法使いを討滅してアトラウス伯爵の命を救ったことが実力を示したからである。


「確かに、我が軍は兵数で大きく劣っている。町に籠城した方が数の不利を補うことができるだろう」


 カイムの問いに、ランスが穏やかな表情で解説をした。


「だけど……籠城戦というのは援軍があって初めて成立するものなんだ。助けが来なければいずれ必ず防衛側が落ちる。そう決まっているんだよ」


 籠城戦は防衛側が大きく有利。攻撃側は防衛側の五倍以上の兵力が必要であるともいわれている。

 だが……城に籠っているだけでは勝つことはできない。どんどん兵糧は減っていくし、武器や物資、兵士を補充することもできない。

 援軍が包囲している攻撃側を撃退してくれなければ、いずれ必ず城は落ちてしまうのだ。


「なるほど……素人が口を出して悪かったな」


「いや、これからも気づいたことがあったら教えて欲しい。それじゃあ、まずは配置の話をしようかな」


 文官らしき女性が現れて、全員に見えるように壁に紙を貼った。そこにはベーウィックの町の西側の地図が記載されている。


「アーサー兄さんは西側から真っ直ぐ攻めてくるだろう。奇策や謀略を否定する人ではないけど、ここぞという場面では真っ向勝負を好む人だからね。僕らも正面から迎え撃つ」


 ランスが地図を棒で示しながら説明する。


「正面に青狼騎士団、右側に黒竜騎士団、左側に貴族の領軍を配置する。黒竜騎士団は数が減ってしまったから、他国から船で呼び寄せた傭兵でカバーする。それぞれの軍団の指揮はイルダーナ、イッカク、アトラウス伯爵に任せるよ」


 ランスが一度言葉を切って、カイムと隣にいるミリーシアに視線をやる。


「ミリーシアは後方で負傷兵の救護に当たってくれ。そして……カイム君、君は遊撃兵だ。僕の指揮を待たなくて良いから、アーサー兄さんを直接狙ってくれ」


「わかりました」


「大役だな。まあ、そっちの方が動きやすくて良いけど」


 ミリーシアが頷き、カイムが肩をすくめた。

 大将首を狙えとは随分と大きな仕事を与えられたものである。

 基本的に他人に会わせるのが苦手なカイムにはそちらの方がずっとやりやすいが。


「アーサー兄さん性格からして、後方の安全地帯に引っ込んでいるということはないはずだ。必ず、前線近くで指揮を執るだろう。もっとも……兄さんの近くにはガウェイン卿とマーリン女史がいるはずだから、近くにいても簡単に討てはしないだろうけど」


「望むところだ。全員、まとめてリベンジしてやるよ」


 帝城から敗走を強いられた雪辱を晴らすときである。

 困難なミッションを突きつけられながら、カイムは漲る闘志に拳を握りしめた。


「それと……もう一つ、カイム君に頼みたいことがある。君は大規模な魔法を使うことができると聞いたけど、是非とも初撃で披露してくれないか?」


「初撃で? 俺の魔法を?」


「ああ。大規模な魔法を出してもらって、敵の志気を落として欲しい。お願いできるだろうか?」


「まあ、別に構わないが」


 断る理由はない。

 敵の方が兵数がずっと多いのだ。最初に数を減らすことができれば、その後の戦いは楽になるはず。


「それじゃあ、細かいプランについて詰めていくよ。敵の行動の予測だけど……」


 ランスが一つ一つ丁寧に説明し、軍議の参加者の意見もまとめて行動方針を決めていく。

 会議は深夜まで続いて、アーサーに立ち向かうための戦略が突き詰められたのであった。


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