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202.御親征ー裏切った者

「チッ……鬱陶しい目を向けてきやがって」


「団長……俺達、やっちまったんじゃねえですか?」


「五月蠅せえ、今さら言ってもどうにもならねえだろうが!」


 黒竜騎士団の団長であるデバルダンは部下の言葉に鬱陶しそうに怒鳴り返した。

 デバルダンは身長二メートルの大男。真っ赤な髪と浅黒い肌の持ち主である。

 帝国人ではなく他国から流れてきた傭兵だが、圧倒的な武力を買われて一軍のトップにまで上り詰めた英傑だった。

 元々、デバルダンは第二皇子ランスに仕えていた。

 しかし……少し前に第一皇子アーサーに鞍替えしており、従軍してベーウィックの町に向かっている最中である。


「あのクソ皇子が俺達を信用していないなんて最初からわかっている! それでも、俺達はこっちに付くことを選んだんだろうが!」


 デバルダンと共にアーサーに寝返ったのは黒竜騎士団の半数ほどである。

 元々、黒竜騎士団のメンバーは金で雇われた傭兵が多い。ランスに対する忠誠心もそれほどではなく、『湖の乙女』の魔法使いに高い報酬を示されて調略を受けたことで裏切ったのだ。


「でも……団長、アイツらはきっと俺らを捨て駒にしてきますよ?」


「…………」


 部下の言葉にデバルダンが苦々しい顔になる。

 調略に応じてアーサーに仕えることにしたデバルダンであったが、現在進行形で自分の判断を後悔しつつあった。

 アーサーは黒竜騎士団を信用していない。

 元々、アーサーは他国に対する外征を積極的に主張しているのだ。

 他国人を信用しておらず、移民出身者の多い黒竜騎士団を下に見ていた。


(あのクソ皇子が俺らを見下している……そんなことはわかっていた。それでも、ランスの野郎に付いて負け戦をするよりも高報酬の勝ち馬に乗った方がマシだと思ったんだがな……)


 デバルダンとて馬鹿ではない。裏切り者の異国人がどのように扱われるかくらい予想はしていた。

 それでも、この戦争ではアーサーが勝利することを見越して、メリットが多いと判断したのである。


「まあ、いい……次の戦いでは俺達は死なない程度にのらりくらりと戦うぞ。アイツらは俺達を使い潰すつもりだろうが、そうはいくものかよ」


 傭兵であるデバルダンは正規軍の兵士の盾にされた経験は何度もある。そういった場合の対処策だって心得ていた。


「いつもと同じさ……傭兵の俺達に居場所なんてない。戦場は金を稼ぐだけの場所だ。余計なことは考えるなよ」


 デバルダンは一方的に部下に言い捨てた。

 ランスだろうがアーサーだろうが、どっちが皇帝になろうと知ったことではない。

 敵を殺して金を稼ぐ。死にそうになったら逃げる。

 傭兵であるデバルダンには誇りなどない。裏切り者と謗られようと、野良犬と罵られようと、知ったことではなかった。


『デバルダン団長、ランス殿下に付いていきましょう』


『あの御方でしたら、きっと私達の住みやすい国を作ってくれます』


(イッカクよう……余計な希望を持つんじゃねえよ。権力者が俺達をどう扱うか知らねえわけじゃないだろうが)


 デバルダンに同調することなく、ランスの側に留まった副官の顔を思い出す。

 黒竜騎士団の副団長であったイッカクもまた移民。戦災に巻き込まれて家族を失い、帝国に亡命してきた異国人である。

 故郷や家族というものに強い憧憬を抱いていたイッカクはランスに心酔しており、黒竜騎士団の半数を率いて残った。

 異国人にも分け隔てなく接するランスに希望を持つ傭兵も多い。デバルダンのように権力者に絶望している者ばかりではないのである。


(ベーウィックに着いたら、イッカクや他の連中とも戦うことになるか……傭兵の世界じゃよくある話。落ち込むことでもねえけどな)


 同じ釜の飯を食った同胞と戦うくらい、傭兵にとっては珍しいことではない。

 それでも……決して、望んでいるわけではなかったが。


「ハア……」


 デバルダンは忌々しそうに溜息を吐くと、ゆっくりと首を振ったのである。


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