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201.御親征ー覇王となる者

「出陣! 出陣!」


「御親征である! アーサー殿下の御親征である!」


 ガーネット帝国を横断する街道。その真ん中を大軍が通過していく。

 六万の軍勢の先頭に立っているのは、アーサー・ガーネット。ガーネット帝国の第一皇子である。


「ああ……とうとう、始まってしまうのか……」


「いったい、この国はどうなるんだ……」


「また、戦争なのか。しかも、皇子同士で殺し合いだなんて……馬鹿げている」


 居合わせた民の顔はいずれも暗いものである。

 もしも、今回の出征の対象が敵国であったのなら、国を護るために戦いに行く兵士達に手を振って送り出すことができただろう。

 だが……アーサーが戦いに行く相手は同じ帝国人。実の弟であるランス・ガーネットを討つための出征となれば、明るく送り出すことなど不可能だった。


「どっちが勝っても、この国は混乱に陥るだろうな……周りの国が攻め込んでこなければ良いんだが……」


「皇帝陛下は何をしているんだ……どうして、皇子達の争いを止めないんだよ……!」


「噂では、皇帝陛下は病で臥せっているという話だぞ? もう長くないからって、次期皇帝の椅子を巡って戦っているとか」


 民衆が口々に勝手な予想をしているが……兵士達は少しも意に介した様子はなく、征伐に向かって行く。

 この軍勢の総大将はアーサー・ガーネット。不世出の武人として謳われている、武闘派の皇族なのだ。

 当然、軍勢の士気は高い。練度も高くて、民衆の戯言で揺らぐことなどありえなかった。


「御親征である! 御親征である!」


 先頭に立った兵士が高々と叫び、ラッパを鳴らす。

 不安げな民衆に見送られて……アーサーは実の弟を討ち果たすべく、帝都から旅立っていった。


「マーリン、ベーウィックの町はどうなっている?」


 軍勢の先頭で馬に跨っているアーサーが訊ねる。

 すると、その隣に妙齢の美女が現れて、プカプカと宙を浮かびながら答えた。


「私の弟子……『湖の乙女』のメンバーを十人ほど送り込んでおいたわよ。もっとも、彼らとの連絡は途絶えてしまったけれど」


「途絶えた……?」


「説明せよ」


 眉をピクリと顰めるアーサー。反対隣にいる黒騎士……アーサーの側近中の側近であるガウェインもまた、厳しい声で問いかけた。


「弟子達には町の偵察と、有力者の調略を頼んでおいたのよね。だけど……商業ギルドの責任者であるエイブスという男を引き込んだという報告を最後に、彼らは消息を絶ってしまったわ。状況からして、死んじゃったんじゃないかしらん?」


「嵌められたということか? その……エイブスなる商人に」


「状況からして、そうでしょうねえ。虚報に踊らされて判断を見誤ったんじゃないかしらあ?」


 ガウェインの問いに答えて、マーリンが困った様子で両手を広げた。


「あの子達、魔法使いとしてはそれなりに優秀なのだけど……まだまだ青いのよね。手柄を焦ってしまったのかもしれないわ」


「……貴様の弟子の不始末であろう。軽く言うな」


「弟子にはあの町における裁量を与えておいた。その上で失敗したというのなら、あの子達の自己責任でしょう? 可愛い弟子が死んじゃったのは悲しいけど……まあ、仕方が無いわよね。戦争だもの」


 弟子を失ったというのに、マーリンの口調は軽い。弟子の死をそこまで悲しんでいる様子はなかった。


「それに……黒竜騎士団の半数を裏切らせたのだから、あの子達も仕事をしたわ。私を攻めるのはやめて頂戴な」


「フン……」


 兜の下で、ガウェインが不快そうに鼻を鳴らす。

 マーリンの軽薄な態度を快く思っていないのだろうが、手柄を立てたのは事実だった。


「でも……気をつけてねん。殿下、彼らは危なくなったら裏切るわよお。ラプラスの悪魔が信用するなと言っているわあ」


「わかっている。予知などなくとも明白だろう」


 臣下の忠告に、アーサーが当然だとばかりに首肯した。


「黒竜騎士団は他国人からなる傭兵部隊だ。帝国人でもない者達を信用などできるものか」


 アーサーは他国への外征を主張し続けているだけあって、外国人に対して厳しい。

 為政者としての理性から、差別や迫害をすることはなかったが……だからといって、心を許してはいない。


「事実、奴らは主君であるランスを裏切っているではないか。今回の戦いでは、奴らは最前線に出して使い潰す。もしも再びランスの側につくような素振りがあれば、即座に背中を射かけてやれ」


「御意」


「りょーかい、わかったわあ」


 二人の側近が真逆の声音で了承を返す。

 


「さあ、ランスよ……この兄に隙は無いぞ! 貴様がどうやってこの俺に一矢報いるのか、楽しませてもらうぞ……!」


 馬を駆って走らせながら、アーサーは弟との戦いに思いを馳せて、愉快そうに笑うのであった。


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