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198.悪魔召喚

「魔術師といっても、ここまで距離を詰めてしまえばこんなものか……」


「おのれえええええええええええっ! よくもおおおおおおおおおおおっ!」


 三人の仲間が殺されたのを見て、他の魔術師達がヒートアップする。

 魔法を発動させようとするが……それよりも先に、カイムの肉体が躍動した。素早く魔術師の間合いに入り込んで腕を振るう。


「【青龍】」


 闘鬼神流・基本の型――【青龍】

 刃に変換した圧縮魔力を振るい、スパスパと魔術師の身体を斬り裂いていく。

 魔術師も魔法で応戦しようとするが、魔力を練り上げて放出するよりも先に、カイムの手刀によって斬られてしまう。


「ギャアッ!」


「クッ……その男を止めろ! これ以上、好き勝手にさせるな!」


「もっと身体を鍛えろよ。ノロマ共」


 嘲るように言いながら、さらに一人の胴体を抜き手で貫いて串刺しにした。

 ここにいる魔術師達が弱いわけではない。むしろ、彼らはアーサーの手駒の中でも指折りの精鋭と言っても良い。

 それぞれが高い潜在能力を生まれ持ち、未来予知の力を持った大魔術師マーリンによって薫陶を受けたことで、才能を鮮やかに開花させたエリート集団だった。

 しかし……そんな『普通』の天才では、十人集まってもカイムと同じ天秤に乗せるには至らない。

 カイムは天才など凌駕した異能。

 当代最高峰の武闘家である『拳聖』の武力、災厄と称される魔人である『毒の女王』の魔力を受け継いだ前代未聞の怪物なのだから。


「フッ!」


「グハッ……」


『湖の乙女』の魔術師の過半数がカイムの手にかかり、絶命した。

 もはや勝敗は決したようなものだが……魔術師達はまだ諦めてはいなかった。


「こうなったら……!」


「やむを得ん、地獄の道連れだ!」


 最後に残った三人の魔術師が切り札を発動させようとした。

 魔術師の肉体に血のように赤い幾何学模様が浮かび上がり、強い光を発した。


「させるかよ!」


 もちろん、カイムも手をこまねいてはいない。

 圧縮魔力の刃を引き伸ばして鞭のようにして、残った三人の魔術師の首を同時に撥ねた。


「……もう……遅い」


「……契約は、なされた」


「帝国に……エイコウ、アレ……」


 胴体と生き別れになり、首だけになった魔術師達の口から笑声が漏れる。

 カイムが眉を顰めると、同時に魔術師達の胴体から黒い煙が噴出した。

 首の切断面から蒸気のように噴き上がった煙はカイムの頭上で凝っていき、やがて人型に形を成していく。


『『『契約はなされた。お前達の魂と引き換えに願いを叶えようぞ』』』


 黒い煙の中から現れたのは身長三メートルほどの異形。

 左右に三つ並んだ山羊の頭、黒い獣毛で覆われた筋骨隆々の肉体を有した人型である。

 禍々しいオーラを纏ったその存在は『悪魔(デーモン)』と呼ばれる存在だった。

 魔術師達はカイムに殺される間際、自分達の魂と引き換えにして、異界から悪魔を召喚したのである。


『『『契約により、これより怨敵を駆逐する。哀れで矮小なる人間よ……苦しみたく無くば、大人しく首を差し出すが良い』』』


 召喚された悪魔……三つの山羊の頭が声を揃えて、カイムに言う。

 余裕綽々といったふうに腕を組み、嘲笑うように喉を鳴らしてカイムを見下ろしている。

 そんな悪魔に対して……カイムは興味深そうに目を細める。


「へえ……悪魔を呼び出す魔法があるとは聞いていたが初めて見たな。これは興味深い」


 恐ろしい異形、地獄の釜から漏れ出したような邪悪なオーラを前にしながら、カイムの態度には少しも焦りの色はなかった。


「お前ら、地獄とか魔界とかに住んでいるっていわれてるけど……実際はどうなんだ。本当に異世界なんてものが存在しているのか? そもそも、人間の魂なんてもらってどうする。食うのか? 美味いのか?」


『『『……恐怖のあまり狂ったか、これだから人間は小さきことよ』』』


 悪魔が「ブヒヒンッ!」と鼻を鳴らして、左腕を掲げた。

 人間の頭をもぎ取れそうなほど大きな掌に真っ赤な火球が生じる。


『『『地獄の業火に焼かれるが良い、身の程を知らぬひとのこ……』』』


「紫毒魔法――【喰らう毒竜(ニーズヘッグ)】!」


『『『ヌオッ……!?』』』


 カイムの手から紫色の竜が出現して、悪魔の胴体に巻きついた。

 悪魔が腕を振るって、竜を引き剝がそうとするが……途端、悪魔の手に宿っていた炎が竜の身体に引火する。

 カイムが大きくバックステップをして悪魔から距離を取り、パチンと指を鳴らした。


「【死爆(ポイズンフレア)】!」


『『『グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』』』


 悪魔が爆炎に包まれる。

 カイムが放ったのは毒の竜。引火性の強い毒ガスを固めて生み出された魔力の竜だった。

 地獄の業火とやらが毒ガスに引火したことにより、巻きつかれた悪魔の肉体ごと大爆発を起こしたのである。


『『『馬鹿、な……なぜ、なにが……?』』』


「馬鹿はお前だろうが。人間を侮って返り討ちとか、ダサすぎるだろう」


 カイムが呆れた様子で悪魔を見下ろす。

 悪魔は爆発によって身体の大部分を失っており、胸部から上が残っているばかりで地面に転がっていた。

 こんな有様になってまだ生きているのだから、生命力だけは驚嘆させられる。


「悪魔っていうのはもっと超越的な存在だと思っていたが……オークやワイバーンとそう変わらないな。お前が特に馬鹿で弱かったのか、それとも悪魔はみんなこの程度なのか?」


『『『おの……れ……おぼえて、いろ……にんげん……!』』』


「もういい。死ね」


 カイムが腕を振るった。

 刃となった圧縮魔力が三つの山羊頭を上下に切断して、今度こそ絶命させる。

 悪魔の残骸が黒いモヤとなり、風に溶けるように消えていった。


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