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197.致命的な間合い

 時間はわずかにさかのぼる。

 アトラウス伯爵ら中立派貴族の軍勢が峠に差し掛かったのを見て、彼らを狙う『湖の乙女』の魔術師らも動き出そうとしていた。


「それでは、ゆくぞ。不忠者らを討ち滅ぼしてくれようぞ!」


 集まった十人の魔術師……黒ローブと白マスクの怪人ら。彼らはいずれも精鋭中の精鋭である。

 大魔術師マーリンによって育てられた弟子であり、いずれも自分の魔法に絶対の自信を持っていた。

 たとえ、相手が二万の兵士であったとしても、自分達であれば撃破することができるだろう……虚構ではない確信を胸に抱いて、峠に赴く。


「峠道は細く、一度に大勢の人間が戦えるような地形ではない。入口側と出口側を土の魔法によって塞いで逃げ道を無くす。その上で爆破魔法を使って峠を崩し、奴らを谷底に落とすのだ!」


 このやり方ならば、多勢に無勢であっても対等以上に戦うことができるはず。

 むしろ、狭い峠道では数が多いことは逆に不利になる。

 混乱した兵士が同士討ちをしたり、峠道から滑落したりすることもあるだろう。


「我らが卓越した魔法の手腕があれば、この程度の仕事は容易である……マーリン師の弟子として、恥じぬ戦いをするぞ……!」


「ウム……やってくれようぞ! 全てはマーリン師のため!」


「偉大なる未来の覇王たるアーサー殿下のために!」


「なるほど……そういうやり方か。たった十人で二万を相手取ろうなんて、なかなかの蛮勇じゃないか」


「「「「「ヌウ?」」」」」


 突如として、割り込んできた声。

 マスクの魔術師達が振り返ると……そこには紫髪の青年の姿があった。


「なっ……!」


「貴様、いつの間にそこに……!」


「わりと最初の方からいたが……むしろ、気づけよと言いたくなるな」


 魔術師らの背後を取った紫髪の青年……カイムは呆れた様子で頭を掻いた。

 いつもとは反対に魔力を消して、気配を可能な限り薄くさせてはいたのだが……正直、ここまで近くに接近できるとは思わなかった。


「何というか……お前らはどこまでも『魔術師』だよな。もっと身体を鍛えろよ」


「敵か……!」


「この男……間違いない、城を襲撃した賊だ!」


 魔術師達の敵意が膨れ上がる。

 彼らは直接目にしていないが、報告は受けていた。

 アーサーを狙って帝城に入り込み、ガウェインやマーリンと戦った青年がいたことを。

 アーサーを含めた三人の強者を相手にしながら帝城を離脱して、そのまま逃げ延びている者達のことを。


「この男……ミリーシア皇女の情夫だ!」


「情夫って……卑猥な言い方をするなよ。人聞き悪すぎるだろう」


 あながち、間違ってはいないような気もするが……カイムが憮然とした表情で抗議をする。


「まあ、良いさ……これから死ぬ奴らに何を言われようと知ったことかよ。好きなように呼べよ」


「殺せ!」


 魔術師らはカイムを殺すべき敵であると判断して、魔力を練る。

 必殺の魔法を放ってカイムを殺害しようとするが……その判断はあまりにも鈍重だった。


「遅えよ。ノロマ」


「ガッ……」


 カイムの手刀が先頭にいた魔術師の首に突き刺さる。

 ブシュリと湿った音が鳴り、喉から噴き出した血が地面を汚した。


「魔術師がこの距離まで敵を近づけるなよ……本当に呆れるぜ」


 魔術師にとって、この間合いは致命的である。

 魔力を練り、魔法を発動させるよりも先に近接攻撃の方がヒットしてしまう。

 だからこそ、魔術師は近距離まで近づけないために工夫をするのだ。

 武器を持って近接戦ができるようにしたり、ガーダーを置いて守ってもらったり、ゴーレムなどの魔法生物を使役したり……やり方は様々である。

 カイムのような遠近どちらもこなせるならばまだしも、遠距離戦闘専門の魔術師がこの間合いまで敵を近づけた時点で敗北している。


「潰れろ」


「「グギャッ!」」


 言いながら、カイムは左右の手でさらに二人の魔術師の頭を掴み、お互いの頭をぶつけて卵のように粉砕したのであった。


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