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195.湖の乙女

 アトラウス伯爵はアーサーにもランスにもつくことなく、中立を保っていた貴族の一人である。

 しかし、彼は領地をワイバーンに襲われていたところをカイムに救われたことで、ミリーシアに味方することを宣言していた。

 ワイバーン襲撃で戦力を落としたアトラウス伯爵には動かせる兵士は少ない。しかし、中立派の雄として多くの貴族を味方にしており、彼らごとランスの下に参じるつもりのようだ。


「アトラウス伯爵を含む中立派貴族の軍勢はおよそ二万。ランス殿下が保有している五万の兵力に加われば、それなりの脅威となるであろう」


 ボソボソとつぶやいたのは、黒いローブにマスクの人物……エイブスに裏切りをそそのかした張本人である『湖の乙女』の魔術師。

 彼の周りには全く同じ格好をしたマスクが十人ほどいる。いずれも、アーサーの側近であるマーリンの弟子達だった。


「彼らが合流する前に各個撃破するのが定石。そして……現在の戦況において、それができるのは我らしかいない」


「情報の精査は? 虚報を掴まされた可能性は?」


「『嘘看破(ライ・サーチ)』の魔法は使っていた。間違いなく、エイブスは真実を話していた」


「なれば、事実であろう」


「マーリン師の許可は得ているのか?」


「否、師は戦いの準備で忙しく、些事には構っていられない」


「アーサー殿下は如何か?」


「殿下は軍を率いてこちらに向かっているが……間に合わないだろう。このままでは、アトラウス伯爵らがランス殿下と合流してしまう。敵の戦力増強を許すことになってしまうのだ」


「それは許されぬ」


「見逃したとなれば、我らが師に叱られよう」


「どうにか、せねばならん」


「幸い、師よりこの地における謀略の裁量を与えられている。この程度の些事であれば、その範囲内といえるだろう」


『湖の乙女』の魔術師達は口々に言う。

 彼らの意見は同じである。アトラウス伯爵がベーウィックの町に到着して、ランスと合流する前に撃破する。


「エイブスからの情報により、アトラウス伯爵らが西の峠を通ることがわかっている。密偵の目をかいくぐってベーウィックに向かうつもりなのだろうが……好都合だ。あの場所であれば、奇襲を仕掛けることもできるはず」


「上位魔術師である我らなれば、二万の兵を崩すことくらい容易いことか」


『湖の乙女』はマーリンによって結成された機関であり、所属している魔術師はマーリンの薫陶を受けた凄腕ばかり。

 たった十人で万を超える軍勢を討ち滅ぼすのは流石に難しいが……何も、皆殺しにするわけではない。

 峠に身を潜めて魔法を放って、数百ほど兵士を殺してやれば良い。それだけで敵の動きを止めることができるし、練度の低い兵士は離散してしまうことだろう。


「あるいは、奴らの中心人物であるアトラウス伯爵を狙撃してやれば良い……それで中立派は終わりであろう」


「良きかな」


「良き、良き。それでゆこう」


「全てはアーサー殿下のため。偉大なりしマーリン師のためである」


「無謀な反逆者ランス・ガーネット……そして、奴に与する愚者どもにその愚かしさの報いを与えてくれようぞ!」


『湖の乙女』の魔術師が一斉に姿を消す。

 峠に潜み、アトラウス伯爵と中立派の貴族達、彼らの兵士を抹殺するために。

 ガーネット帝国最精鋭の魔術師部隊が暗躍を始めたのであった。


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