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193.青狼の敗北

 鍛錬場での決闘が終わった。

 カイムが百人の兵士達を薙ぎ倒して、青狼騎士団の副団長であるオーディー・イスコーを撃破した。

 一対百の決闘の意外な結末を目にして、傍で控えていたルイヴィ・イルダーナは言葉を失って立ちすくんだ。


「…………」


(何という強さ……まさか、兵士達だけではなく、オーディーまでもが一矢報いることなく倒されてしまうとは……!)


 イルダーナは青狼騎士団の団長。オーディーにとっては直属の上司である。

 オーディーはまだ二十代と若く、血の気が多くて冷静さを失いやすいという欠点のある男だった。

 それでも、槍の腕前は間違いなく本物。おまけに、兵士達からの人望も厚くて、副官を任せるに足るだけの実力を持っている。


(だが……そんなオーディーが負けた。ただ敗北しただけではない。かすり傷の一つすら与えることなく、あっさりと敗北した……)


「どうだ? アレが姫様の選んだ御方……私達のカイム殿だ」


「レンカ殿……」


 一緒に戦いを観戦していたレンカが得意げに胸を張る。

 豊かな胸元をグッと突き出して、とっておきの宝物を自慢するように語った。


「カイム殿は無双の戦士。アーサー殿下やガウェイン卿、マーリン女史、金獅子騎士団の団長にすら勝るとも劣らない実力の持ち主だ。イルダーナ卿の部下が弱卒とは言わないが……百や二百ぽっちの兵士を相手に、敗北するような軟な男ではないのだよ!」


 自信満々。全幅の信頼を込めた言葉に、イルダーナは心底以外に思った。

 レンカという女騎士については以前から知っていた。十代で王家直属の戦力である金獅子騎士団に加入して、皇女ミリーシアの護衛を任された雌獅子である。

 若さゆえの未熟さはあれど、間違いなく帝国を支える戦力になるであろう将来の有望株。

 美貌の女騎士であるレンカは帝都では、多くの男達の心を奪って口説かれていたのだが……浮いた話は一切聞かない。

 騎士団では男嫌いであるという噂すら流れていたというのに、あのカイムという青年にはすっかり心酔しているようだった。


「彼はミリーシア殿下の婚約者であると紹介されていたが……もしかして、レンカ殿も関係を持っているのかな?」


「…………」


 イルダーナの指摘にレンカは答えないが、明らかに頬が朱に染まったのを見逃さなかった。


「なるほど……おっしゃる通りに傑物だな」


 信仰に身を捧げた皇女、男に興味のない女騎士を落としたのだから、それはもう相当な男なのだろう。

 英雄色を好む。皇女だけで満足することなくさらなる美姫を求めるのだから、よほどの器を持った男に違いない。


「オーディーでは勝てぬわけだ……認めよう。彼がアーサー殿下との戦いを左右することができる力を持っていることを」


 この世界には一騎当千の戦士が存在する。

 アーサーの腹心であるガウェインやマーリンがそうだし、イルダーナもまた百や二百の兵士を余裕で撃破することができる英傑だった。

 しかし……カイムの強さは底が知れない。本当に帝国最強の武人である金獅子騎士団の団長にすら肩を並べるかもしれない。


「ミリーシア殿下が、そして、レンカ殿が伴侶して選んだ男……戦場では存分に頼らせてもらうとしようか」


「カイム殿……我らの完敗です! これからは『兄貴』と呼ばせてください!」


 イルダーナとレンカの視線の先で、敗北したオーディーがカイムの前で跪いていた。

 オーディーは熱血で暑苦しい男だ。

 だからこそ単純であり、自分の負けを素直に認められる愚直さも持っている。

 戦いで敗北したことにより、カイムがミリーシアを任せるに足る男であると認めたようだった。


「どうか、ミリーシア殿下をよろしくお願いします……兄貴!」


「お、おお……? わかった……?」


 態度を急変させたオーディーに対して、カイムが唖然とした様子で差し出された手を握り返していたのであった。


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