192.一対百の決闘
「「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」」」」」
カイムが足元に叩き込んだ衝撃波により、地面が爆ぜて大量の粉塵が撒き上がる。
突進してきた兵士達を巻き込んで、嵐のように土煙が吹き荒れた。
「どうした、どうした! 俺を殺すんじゃなかったのか!?」
カイムが嗤い、土煙の中に飛び込んだ。
視界が茶色のカーテンに覆われるが、構うことなく拳を振るう。
「【麒麟】!」
「グオッ……!」
「ギャアッ!」
圧縮魔力の弾丸を放った。
本気で放てば頭部を粉砕できる威力の衝撃弾であったが、威力を抑えたため、何人かの兵士を撥ね飛ばしただけに留まっている。
予想外の事態。予想外の攻撃に戸惑っている兵士達……カイムは彼らに飛びかかり、前にいる奴らから順番に殴打を浴びせかける。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
「「「「「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」」」」」
兵士の顔を殴り、胴体を殴り、蹴り飛ばして蹴散らしていく。
それなりに訓練されている屈強な兵士が冗談のように倒されていく姿は、いっそ滑稽さすら感じさせられる。
戦いが始まってから一分と経っていないのに、百人いた兵士達の半数が薙ぎ倒されていた。
「なるほど……! ミリーシア殿下が選ぶだけあって、面だけの雑魚というわけではないわけか!」
多くの兵士が倒され、あるいは戦意を失っている中……青狼騎士団の副団長であるオーディー・イスコーが果敢に槍を突き出してきた
「へえ……そっちこそ悪くないな。なかなかに素早いし、強い」
カイムが感心しながら、オーディーの槍を回避する。
オーディーは槍で突いては引き、ついては引き、目にも留まらない速度で無数の刺突を繰り出してくる。
常人であればろくに反応もできず、無数の穴を開けて蜂の巣のようになっていたことだろう。
「その若さで一軍の副団長を任されているのは、伊達ではないということか。褒めてやるよ」
「上から目線で何様だ! 我が女神を穢した神盗人め……死ねえええええええええええええええええええっ!」
ただの模擬実戦。殺しはご法度というルールを忘れたように、殺す気満々で襲いかかってくる。
とうとう、無数の突きの一つがカイムを捉え、額に命中した。
「【玄武】」
「なっ……!」
だが……確実に命中したはずの穂先はカイムの額に弾かれて、血の一滴すらも流れない。
闘鬼神流・基本の型――【玄武】
圧縮魔力を狭い範囲に集中させることにより、防御力を大幅に上昇させる技である。
オーディーの槍は業物だったし、魔力も込められていた。
「だが……残念だったな。お前の槍よりも俺の生身の方が硬い。それだけだ」
「ッ……!」
驚愕に目を見開いたオーディー。
必殺と信じた一撃を防がれたショックにより生まれた隙を見逃すことはなく、カイムはカウンターを放った。
「【蛇】」
圧縮魔力が鞭のように伸びて、オーディーの首に痛撃を与える。
「グアッ……」
「命を奪うつもりで攻撃してきたんだ。だったら、多少の痛い思いは甘んじて受けろよ」
予想外のカウンターを喰らったオーディーの身体が前のめりに倒れ、カイムはさらなる追撃。腹部をボールのように蹴り飛ばした。
「オオオオオオオオ……!」
オーディーが間延びした悲鳴を残して、鍛錬場の隅まで転がっていった。
「さて……お前らの指揮官は倒れたわけだが、続けるか?」
「「「「「…………」」」」」
残っていた兵士達に問いかける。
兵士はまだ三十人ほど残っていたのだが、彼らはしばしの沈黙の後で武器を手放し、膝をついて項垂れた。
戦意が残っている兵士は誰もいない。カイムの圧倒的な強さの前に、そこにいる誰もが屈していた。
「勝負あり。俺の勝ちだな」
カイムは倒れ、項垂れる兵士達を見下ろして、傲然と勝ち誇ったのであった。




