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17.微熱の名残

「よし、こんなものだな。俺の方の準備はこれで整ったが……」


「お待たせいたしました。カイムさん」


 カイムが目ぼしいものをアイテムバッグに収納したタイミングで、着替えに行っていた二人が戻ってきた。

 金髪の女性――ミリーシアが来ているのは水色の簡素なドレス。裾はやや短くて動きやすさを重視しており『お出かけ用のオシャレな服』といった服装だ。


「待たせてしまってすまない。着替えを覗きにも来なかったようだし、感心なことだ」


 赤髪の女性――レンカは金属製の軽鎧をきっちりと身に着けている。赤い髪を後頭部で纏めており、腰には細剣を差していた。

 どうやら、彼女は女騎士だったようである。ミリーシアの身辺警護をする護衛役と言ったところだろうか?


「婦女子の着替えを覗くなんてくだらない真似をするかよ。どれだけ信用がないんだ」


「そうですよ、レンカ。カイムさんに失礼ではありませんか」


「ムッ……すまない。これは失礼をした」


 カイムだけではなく主人のミリーシアにまで責められ、レンカがわずかにたじろいで目を伏せる。


「しかし……何故だかわからないのですが、その男を見ていると胸がムカムカしてくるというか、妙に落ち着かない気持ちになるのです。間違いなく初対面のはずなのですが……まるでそれ以上の関係があったような気分になってしまいまして」


 言いながら、レンカは自分の唇を指で撫でている。

 無意識の仕草なのだろうが……そこは彼女を治療するにあたってカイムが貪った箇所だった。


「え……レンカもなのですか? 実は私もです」


 従者の言葉に、ミリーシアまでもパチクリと瞬きをする。


「実を言うと、私もカイムさんを見ていると心臓がドキドキと高鳴ってきて、頬が熱くなってくるのですけど……? 私の身体、どうなってしまったのでしょう?」


「き、気のせいだと思うけどな。おそらく、盗賊に飲まされた薬の後遺症が残っているのではないか? 早く町に行って、十分な休息を取ったほうがいいと思うぞ! うん!」


「……カイムさんの言う通りですわね。私達の荷物もまとめて、ここを出ましょうか」


 カイムは何とか話題を逸らすことに成功した。二人に気づかれないように安堵の息をつく。


「だけど……これだけの荷物をどうやって運ぶつもりだ? 君達が乗っていた馬車も壊されてしまったようだし。必要ならば俺のアイテムバッグに入れてもいいが……」


 盗賊から奪った戦利品はアイテムバッグに入れたが、ミリーシアらの荷物がまだ残っている。

 荷物はかなりの量で、そのまま運ぶには無理があった。


「ああ、大丈夫ですわ。私達も収納アイテムは持っていますから」


 ミリーシアが荷物を探り、手の平に乗る大きさの木箱を取り出す。装飾の施された箱を開けると簡素なデザインの指輪が入っていた。


「この指輪にはカイムさんのバッグと同じように空間魔法がかけられており、持ち物を収納することができます。これがあれば……ほら」


 ミリーシアが残っていた荷物を一瞬で収納した。指輪に吸い込まれるようにして大量の荷物が消えてしまう。


「これですぐにでも出発できますわ。行きましょうか」


 右手の人差し指に指輪を嵌めて、ミリーシアがニッコリと微笑みかけてくる。


「ああ……そうだな」


 カイムは頷きながらも、内心に生じた疑問に眉根を寄せた。

 先ほど、レンカが説明していたが……大量の物品を収納することができるアイテムは稀少で、場合によっては国宝ほどの価値があるそうだ。

 ファウストからもらったマジックバッグには城が買えるほどの値段がつくそうだが……ならば、ミリーシアの指輪にも同じだけの価値があるのではないだろうか?


(むしろ、アッチの方が高価そうだな。形状も指輪だから持ち運びには便利だし、武器を隠していざという時に取り出したりとかもできるよな)


 ますます、ミリーシアが何者なのか気になるところである。

 ひょっとしたら……目が飛び出るような高貴な身分の人間なのかもしれない。


(だとしたら……ますます、唇を奪ったことを知られるわけにはいかないな。不敬罪やら何やらで命を狙われたら面倒だぞ)


「どうされましたか、カイムさん?」


「いや……ずっと洞窟の中にいたから、身体が冷えてきたようだ。背筋に悪寒が走った」


「そうですか? 申し訳ありません、私達が準備に手間取ってしまったせいで……」


「……まあ、別にいいけどな。そんなことよりもさっさと外に出ようぜ。いい加減に太陽が恋しくなってきた」


 カイムは申し訳なさそうに顔を覗き込んでくるミリーシアから視線を背け、足早に洞窟の出口に向かうのであった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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