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186.バーベキューと思い出

 それから十分ほどの時間をかけて、エンペラークラブはバラバラに解体された。

 最終的にエンペラークラブは逃げようとしていたが、カイムは沖の側に回り込んでエンペラークラブが逃げることを許さない。

 自慢の巨体が仇となったらしく、水中に身を隠すこともできなかった。

 攻撃が大ぶりな分だけ避けやすかったし、関節部分の弱点もわかりやすい。

 百回戦ったとしても、一敗だにすることなく全勝することができるだろう。


「美味いな。カニを食ったのは初めてだ」


 浜辺で茹でたカニをしゃぶりながら、カイムが感嘆の声を上げる。

 目の前にある大鍋では、エンペラークラブの残骸がグツグツと茹でられていた。

 鍋の横では同じように海の幸が網の上で焼かれていて、ジュージューと香ばしい匂いを放っている。


 エンペラークラブを倒したカイム達であったが……カニの死骸を見下ろして、さてどうしようかと思っていたところで、漁師に声をかけられた。

 カニの一部を分けることと引き換えに鍋や他の食材を提供してくれて、バーベキューをしているところである。


「こちらのスープも美味しいですよ。とても良い出汁が取れています」


「味が濃厚だな……とても精が付きそうだ」


 ミリーシアとレンカはカニで出汁を取ったスープを飲み、幸せそうに相貌を緩めている。


「がう……こっちのお魚、美味しいですの……」


「貝が良く焼けていて、食べ頃だわ」


「アグアグ、モグモグ……」


 ティーとロズベットはバーベキューの貝に舌鼓を打っている。

 リコスはひたすらに食べ続けており、頬をハムスターのように膨らませていた。


 束の間の休息。

 泳いで、食べて、海水浴を心から満喫していた。


「やあ、美味しそうな物を食べているじゃないか。僕も混ぜてくれよ」


「ランスお兄様……」


 水着に上着を羽織った姿のランス・ガーネットが現れた。ミリーシアが「ムッ……」と眉を顰める。


「どこに行っていたんですか?」


「いや、秘書に見つかってしまってねえ。どうやら、書類仕事を放り出してきたのがバレてしまったみたいだ。強引に連れ戻されて、机に縛りつけられて仕事をさせられたよ」


「ランスお兄様、貴方という人は……!」


「お説教は勘弁してくれ。秘書からさんざんされたばっかりだからね」


 怒りをあらわにするミリーシアに、ランスが両手を上げて降参をアピールした。


「久しぶりに会った妹と、童心に帰って遊びたかっただけなんだけどな……覚えているかい? 子供の頃、父上にバカンスに連れてきてもらったことを。あの場所もこのビーチだっただろう?」


「……覚えています。忘れません」


「父上が壮健の頃は良かったね。アーサー兄さんも帝位に固執してはいなかったし、僕らの間に確執はなかった。いつかまた、一緒に遊びに来ようと約束していたんだけどねえ」


「…………」


 ミリーシアが表情を曇らせ、遠い目になった。

 子供時代、在りし日の思い出を回帰させているかのように。


「アーサー兄さんとは二度と来られないだろうから、せめてミリーシアと一緒に来たかったんだよ……まあ、仕事のせいで台無しになったけどね」


 言いながら、ランスが茹でカニにしゃぶりつく。

 熱いカニの身をハフハフと音を立てながら、美味しそうに食べる。


「……もう、あの頃には戻れないのでしょうか?」


「無理だよね……僕らは良くても、アーサー兄さんが納得しない。あの人は骨の髄まで武人だから。仮にも僕達がアーサー兄さんを倒すことができたとしても、あの人は情けをかけられるくらいなら自害するよ」


「…………」


 ミリーシアが唇を噛んで、黙り込む。

 ランスの言葉が正しいと心の中で認めたのだろう。

 アーサー・ガーネットという男は降伏なんてしない。最後まで戦う、死ぬその瞬間まで。


「フン……どうでもいいな」


「ムグッ……!?」


「湿っぽい話をするなよ。飯が不味くなるだろうが」


 カイムが鬱陶しそうに唇を歪めて、ミリーシアの口にカニの身を押し込んだ。


「とっくに覚悟はできてるんだろうが。アッチもコッチも。今更、考えても無駄なことをほざくなよ」


「……はい、すみません」


「いいから、食え。食えば元気が出る。吐くまで食え」


「い、いえいえっ! こんなに食べられませんよっ!」


 カイムがカニを、焼いた貝や魚をミリーシアに押しつける。

 ミリーシアは戸惑いの声を上げながらも、どうにか料理をたいらげようとする。


「フフフ……」


 そんな妹の姿を見て、ランスは微笑ましそうに口元を緩めたのであった。


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