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182.兄と妹

「ランス殿下は決して馬鹿ではない。愚鈍ではない……あの様子を見ていると、誤解したくなる気持ちはとても理解できるがな」


 ミリーシアから説教をされているランスを見やり、レンカが溜息混じりに言う。


「まず、ランス殿下は交渉に長けている。惚けた様子で油断してしまう人間が多いが、実際にはかなりの切れ者だからな。のんびりとした話しぶりに『与しやすい』と勘違いした人間は、ことごとく交渉で打ちのめされて不利な契約を結ばれてしまうんだ」


「あの態度は演技ということか?」


「全てが演技というわけではないだろうが……あえて周りを侮らせるような言動をしているのは、否定できないな。実際、ランス殿下は人望がある。優秀な臣下を大勢抱えていて、こうしているうちにも彼らが戦支度をしてくれているはずだ」


 ランスがビーチから少し離れた場所にあるベーウィックの町に視線を向けた。


「優秀な人材を適材適所の場所に配置し、権限を与えて仕事を一任する。ワンオペのアーサー殿下とは正反対のやり方だが、この方法によってランス殿下は兄君に並ぶ勢力を築き上げたんだ。他国の協力者も多いし、だからこそ姫様はランス殿下を次期皇帝にしたがっているんだ」


 ランスは外交を担っていて、アーサーは外征を主張している。

 ならば、帝国との戦争を避けたがっている周辺諸国もまた、ランスを支持することだろう。

 武力のアーサーと融和のランス。どちらが優れているかなど、実際に争うその時までわからないのである。


「まったく……ランスお兄様はこれだから……」


 やがて、気が済んだのかミリーシアが戻ってきた。


「もういいのか?」


「はい。ランスお兄様には明日からちゃんと仕事をするように約束させました。今日のところは遊ぶことを許してあげます」


 憮然とした様子でミリーシアが頬を膨らませる。

 いつになく子供っぽいミリーシアの様子に、カイムが物珍しそうな顔をした。


「何というか……お前らって、兄妹なんだな」


「どういう意味ですか?」


「そのままの意味だよ」


 ミリーシアとランスのやり取りを見て……カイムは「普通の兄妹というのはこういうものなのか」と感心した。

 カイムにもまた妹がいるが、彼女とは仲睦まじく遊んだ思い出はなく、ケンカすらしたことがない。

 無視をするか、向こうが一方的にこちらを悪人にして虐げてきただけである。


(もしも『毒の女王』の呪いを受けることがなかったら、俺達もあんな兄妹になっていたのかもしれないな……)


「……ゾッとするな」


 胸にモヤッとした感傷が生じるが、カイムは秒で笑い飛ばした。

 あったかもしれない未来ではない。すでに無い幻想だ。そんなものに拘泥する意味はない。


(あの男の決断によって失われたことだ……どうでもいいな)


「それで? 俺達はこれから何をするんだっけ?」


「遊んで良いそうですよ……こうなったら、思いっきり楽しんであげましょうっ!」


 ミリーシアがヤケクソのように言う。

 兄には呆れ返っているようだが、それはそれ。

 そう遠くない未来にアーサーとの戦いが始まるのだから、これが最後の息抜きになるだろう。


「カイム様も遠慮なく海水浴を楽しんでください! 仮にこれで問題が生じたとしても、全部全部、ランスお兄様の責任ですからねっ!」


「わかった……海で泳ぐのは初めてだし、楽しませてもらおう」


「カイム様は泳げますの? 泳いでいるところは見たことがありませんけど?」


 ティーが首を傾げて、問うてくる。


「いや、ないな」


 昔は病弱だったし、泳ぎ方なんて『毒の女王』の知識にもない。


「だったら、ティーが教えますわ。前に川に潜って魚を獲ったことがありますの」


「私も水練の経験があるから、教えられるぞ」


「私もよ。それほど上手ではないけれど」


 ティーに続いて、レンカとロズベットも挙手をした。

 さらに、ミリーシアも控えめに手を上げる。


「私もほんの少しだけですけど、教えられると思います」


「そうか、それじゃあ頼む」


 カイムは四人の美女・美少女からレクチャーを受けて、生まれて初めての海水浴に臨んだ。


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