表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

190/266

179.ランス・ガーネット

「やあ、ミリーシア。久しぶりだね。元気だったかい?」


 ベーウィックの町に到着したカイム達一行であったが……驚くほど、本当に驚くほどあっさりと第二皇子ランス・ガーネットに会うことができた。

 町の入口でミリーシアが身分を明かしたら、そのまま城門の警備をしていた兵士に領主邸に連れていかれ、そこにいたのだ。

 ランス・ガーネットが。ジェイド王国からこの男と会うために旅をしてきたというのに……ここにきて、拍子抜けなほど簡単に会えてしまった。


「ら、ランスお兄様……?」


 あまりにもあっさりと会えた兄に、ミリーシアも喜ぶよりも驚いているらしい。

 端正な顔を引きつらせて、それ以上の言葉を失っている。


「ああ、せっかく他国に亡命してもらったのに帰ってきてしまったんだね。まあ、仕方がないか。ミリーシアは心配性だからね、内乱中の祖国を放ってはおけないか」


 ランスは銀髪で背の高い美青年だった。

 顔立ちは整っているものの……兄のアーサーとも、妹のミリーシアとも似ていない。

 賢そうな顔立ちではあるが、穏やかでどこか頼りなさを感じさせる温厚そうな人物でもあった。


「アーサー兄さんとの戦いの前で忙しいから、あまり構ってあげられないけれど……ゆっくりしていくと良いよ」


 領主邸のエントランスでミリーシアを出迎えたランスは、それで用事を済ませたと判断したのか「それじゃ」と奥に引っ込もうとする。

 去っていく兄の背中を見て……ようやく、ミリーシアが声を上げた。


「ま、待ってください! ランスお兄様!」


「え?」


「そ、それだけですか? 久しぶりに会ったというのに……?」


「えっと……他に何か話すことがあったかな?」


 ランスが不思議そうに首を傾げる。


「久しぶりとはいっても、一年も経っていないはずだけど? ミリーシアが神殿に入ってからはそれ以上に会わない時期もあったし、感動の再会というほど時間は挟んでいないはずだけど……?」


 ランスの言い分もわからなくはない。

 ミリーシアにとって、ジェイド王国からこの町にやってくるまでは大冒険だった。

 盗賊に囚われて犯されそうになり、カイムと出会って救出され。

 カイムと恋人関係になりながらも大河を渡り、ガーネット帝国に戻ってきた。

 アーサーと決別して、追っ手や殺し屋に追われながらも多くの戦いを経て、ようやくここまでたどり着いたのだ。


 だからこそ、ランスに出会えたことの感動もひとしおのようだが……ランスにしてみれば、知ったことではない。

 ちょっと会わなかった妹に再会しただけ。

 別に感動するほどのことではなく、二人の間にはかなりの温度差があった。


「…………」


「レンカもご苦労様、妹が世話になったねえ。見慣れない子も多いみたいだけど……おや、そっちの男の子は誰かな?」


 ランスがカイム達に視線を移して、穏やかに話を振る。


「もしかして、恋人とかかな? ミリーシアも年頃になったものだね。昔は僕の後ろをチョコチョコと付いてきていたのに、懐かしいよ。これからも、妹に良くしてあげてくれ」


「…………ああ」


 カイムが隣のミリーシアを気にしながら、微妙な表情で頷いた。

 ミリーシアは顔を赤くして、両手の拳をワナワナと震わせている。


「ランスお兄様……貴方という人は……!」


「うわ……」


 ミリーシアが怒っている。

 頬を膨らませて、いつになく子供っぽく怒っている。


(まあ、気持ちはわかるけどな……アレだけ苦労させておいて、この軽いリアクションだからな……)


 ミリーシアはここに来るまで、多くの苦難を乗り越えてきた。

 長兄であるアーサーと決別してまで、ランスと一緒に戦う覚悟を決めてきたのだ。

 それなのに……当事者であるランスがのほほんとした様子で、ミリーシアの苦労を少しも理解した様子がない。


(ミリーシアにしてみれば、自分の覚悟に泥を塗られたような気分だろうな……)


「何を怒っているんだい、ミリーシア?」


 ランスが惚けた様子で首を傾げる。


「心配せずとも、反対なんてしないよ。二人の仲を応援してあげるし、子供の名前だって考えてあげよう。可愛い妹の門出だからね。盛大にお祝いしようか」


「……ランスお兄様、今がどのような状況かわかっていますか?」


「状況? それはアーサー兄さんが出兵の準備を整えていて、一週間もすればこの町に攻め込んでくるという情勢のことかな?」


「…………!」


 一週間。

 具体的な数字を出されて、ミリーシアが目を見開いた。

 いずれ来るだろうと思ってはいたが……いよいよ、戦いが始まろうというのか。


「それはそうとして……式場の手配とかもしないといけないよね。司祭様はできればミリーシアの後見人であるマザー・アリエッサにやってもらいたいなあ。来賓はできるだけ大勢呼びたいけど……アーサー兄さんは流石に来てくれないかな?」


「お兄様の……」


「うん? どうかしたのかな?」


 のんびりと……一週間後に決戦を控えているというのに、暢気な様子の兄にミリーシアの堪忍袋が限界を迎えたらしい。

 カイムが耳を塞いで、他の仲間達も距離を取る。


「ランスお兄様の馬鹿アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


「わあっ!?」


 怒りの叫びを上げたミリーシアに、ランスが驚いてひっくり返った。

 ランスに仕えている従者達が慌てて主人を抱き起こす。


「……本当に大丈夫か、コイツで」


 ミリーシアの計画では、アーサーに代わってランスに次期皇帝になってもらうはずだったのだが……のんびりとした第二皇子を前にして、今になって不安になってきた。


 殺し屋との戦いが終わったばかりだというのに、一難去ってまた一難。

 戦場で生まれ落ちた獅子の化身。戦いの申し子。

 第一皇子アーサー・ガーネットとの決戦が、一週間後にまで迫ってきていたのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍6巻、好評発売中!
画像をクリックすると作品紹介ページにジャンプします
i000000
― 新着の感想 ―
ランス皇子、状況が本当の意味で理解できてないボンクラか、理解してて尚マイペースな大物か…。大丈夫かコレとは思うでしょうなあ。あっさり会えたのも「コレでよく暗殺されなかったな」でしょうし。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ