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167.ガランク山決戦ー殺

 カイムがディードと戦っている一方。

 山の中腹では、いくつもの戦いが生じており……そして、終わろうとしていた。


「ウウッ……グウウウウウッ……」


「御免なさいねえ。許して頂戴」


 引き金を引くと、銃声が鳴った。

 撃ち放たれた弾丸が男の頭部を撃ち抜き、そのまま命を刈り取った。


「やれやれ……みんな、やられてしまったわねえ」


 溜息混じりにつぶやくのは、殺し屋組織『カンパニー』の女ボスである『ミストレス』である。

 銃を握りしめる『ミストレス』の周りには、多くの人間と魔物が倒れていた。

 それは立ちふさがった敵、そして部下だった者の成れの果てである。

 カイムの毒によって興奮して、襲いかかってきた魔物と同業者……彼らとの戦いにより、『ミストレス』は率いていた護衛達を全て失ってしまった。


「やれやれ……やっぱり、最大の敵は同業者だったわけね」


『ミストレス』が今しがた射殺した男は『茫々鳥』と呼ばれている殺し屋だ。

 殺した相手の血液を啜り、飲むことで恐れられている邪悪な男だったが……その殺し方ゆえに魔物に打ち込まれた興奮剤を口にしてしまい、正気を無くして『ミストレス』のことを襲ってきた。


「たぶん、他の子達もやられているわよね」


『ミストレス』が弾切れになった銃の引き金をカチカチと鳴らして、諦観に肩を落とす。

 彼女のグループとは別に、いくつかの別動隊が岩山に入っている。

 この状況から見るに……彼らも魔物の襲撃や同士討ちによって、殺られてしまっているだろう。

 こうなってしまえば、ターゲットを討ち取ることも不可能。

 損害を出すだけ出して、成果無しで終わりである。


「私がボスになって以来、最大のミスね。さて……支援者の方々にどんな責任を取らされるかしら?」


「責任を取るのが嫌なら、いっそ逃げてしまってはどう? 地獄とか居心地が良いって聞くわよ?」


「あら……いたのねえ」


『ミストレス』の独り言に答える声があった。

 背後から聞こえてきた声に、『ミストレス』は振り返りもせずに言葉を返す。


「貴女で詰んでしまうのね。驚いたわねん」


『ミストレス』が銃を捨てて、両手を上げる。

 いつの間にか彼女の背後に立っていたのは、同業者であったはずの女性……ロズベットだった。

 ロズベットは『ミストレス』の真後ろでナイフを構えて立っており、回避も反撃も間に合わない距離にまで入り込んでいる。


「参ったわね。苦しまないようにやってくれるかしらん?」


「潔いのね。もっと抵抗したらどう?」


「無駄なことはしないわあ、ロズベットちゃん……どうせ、私が死んでも次がいるもの」


『ミストレス』が淡々とした様子で答える。

『カンパニー』は会社だ。『ミストレス』はそのボスではあるものの……代えの効く頭である。

『ミストレス』が死んだところで、次のボスが会社を建て直すことだろう。


「むしろ、私がいたら会社再建の邪魔になるわあ。解任されたお局さんがいつまでも居座ったら、後任にとっても目障りでしょお?」


「ああ、そう。それじゃあ、殺しても構わないわね」


「グッ……」


 抵抗も命乞いもないのなら、これ以上の会話は無駄である。

 ロズベットは迷うことなく、『ミストレス』の背中に刃を突き立てた。


「首を……狩らないのお……?」


「貴女にはそれなりに世話になったから。これで許して上げるわ」


 ロズベットと『ミストレス』は年齢も近く、同業者であるためにそれなりに親交があった。

 酒を酌み交わしたこともあるし、一緒に仕事をしたことだってある。

 それでも、敵対してからは容赦なくお互いを殺しにかかってきたのは、どちらもプロということだろう。


「そ……アリガト」


「別に良いわ。気にしないで」


 ロズベットがナイフを引き抜くと、『ミストレス』が倒れた。

 心臓を貫かれた『ミストレス』が目覚めることはない。


「…………」


『ミストレス』の死体を見下ろして、ロズベットが少しだけ悲しそうな表情をする。

 赤いドレスにさらに赤い鮮血が広がっていく。

 ロズベットは溜息を一つだけついて、ナイフを払って血を落とす。


「さようなら」


 ロズベットは小さく別れの言葉を告げてから、次の獲物を求めて岩山を歩いていった。


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