166.ガランク山決戦ー戦
ガランク山の頂上付近にて、カイムと『墓穴堀りのディード』が真っ向からぶつかり合った。
「フンヌッ!」
「コイツ……!」
ディードが大きなスコップを振り回し、カイムめがけて襲いかかってくる。
スコップを叩きつけるたび、地面が爆ぜて、岩山にある岩石が砕けていく。
その一撃一撃はとんでもないパワーであったが、技もへったくれもない。力任せに暴れているだけの駄々っ子のような戦い方である。
(だが……強い。凄まじく、とんでもなく強い……!)
ディードの攻撃を回避しながら、カイムが心中で唸った。
ただの力押しがとんでもない破壊力になっている。
技を必要としない腕力任せの戦い方がやたらと様になっていた。
(それに……パワーだけじゃない……!)
「【麒麟】!」
バックステップで距離をとり、圧縮した魔力を飛ばしてぶつける。
だが……ディードの肉体に命中した魔力が弾けて、霧散した。
「ハアッ!」
そして……平然とした様子で反撃してくる。
特別な結界や防御術で防いだのではない。単純に体が固くて、弾かれてしまったのだ。
「このタフネス……魔力で強化しているわけでもないのに、化け物かよ……!」
ディードの肉体はカイムのように魔力を纏っているわけではない。
それなのに……硬い、強い、とんでもなく丈夫で信じられないほどにパワフル。
「人間が純粋な身体能力だけで、闘鬼神流の圧縮魔力を防ぐって……世界は広いよな。こんな人間もいるのかよ……」
「ヌウッ……!」
言いながら、カイムは一撃、二撃、三撃とディードに攻撃を叩き込む。
顔、腹、股間を連続で強打してやったが……やはり、ディードは揺るがない。
間髪入れず、スコップを振り回して反撃を繰り出してくる。
「フンヌッ!」
「チッ……」
カイムは舌打ちをして、横に薙ぐ一撃を伏せて避けた。
もしもまともに喰らっていたら、頭部が吹き飛んでいたところである。
「速いな……恐れ入る」
「それはこっちのセリフだ……俺の毒を何発も喰らって、どうして動けるんだよ」
重々しいディードの言葉に、カイムが忌々しそうに返す。
カイムの魔力には毒が込められている。
打撃を受けるたび、ディードも毒を体内に入れられているはずなのだが……それなのに、平然としている。
(打撃へのタフネスだけじゃない。毒への抵抗も強いのか……!)
「【青龍】!」
「ムッ……!」
圧縮魔力を刃にして斬りつけるが……やはり、硬い。
皮一枚を切り裂いただけ。わずかに血が飛ぶが、それだけである。
「こんなに丈夫な奴は初めてだよ……お前、もしかしてドラゴンの血を浴びた神話の英雄だったりするのか?」
子供の頃に呼んだ本にそんな英雄がいた。
ドラゴンを倒し、その血を浴びたことで鋼の肉体を得た戦士。
いくつもの戦いの末に財宝を手にして、美しき姫まで手に入れたという。
「知らぬ。そんなことは。少なくとも……竜を殺した覚えはない」
「そうだろうな。ドラゴンを殺しても不死にはなれない。アレはおとぎ話の中の話だ」
ドラゴンの血を妙薬の材料になるため、それが曲がって伝わったのだろう。
「魔物の血を引いているのか……それとも、特別な魔法の実験で生み出されたとか? あり得ないだろ、その身体はどうなっていやがる?」
「己の生まれになど興味はない。ああ、そうだ。そうだとも……」
ディードは斬られた傷を撫で、血を掬って舐める。
「戦う理由があり、そして敵が目の前にいる……それで何が不満だ。何か戦いを妨げるりゆうがあるのか? いいや、あるわけがない。なかろうに……」
「……違いない。おしゃべりが過ぎたようだな」
相手のタフさが物珍しくて、ついつい興味が誘われてしまった。
しかし……興味なんて抱く必要はなかった。
これから殺す相手の、何を知る意味があるというのだろう。
目の前にいるのは敵だ。自分の女を奪おうとしている敵。
ならば……やるべきことは一つである。
「殺す」
「ああ、殺すとも」
お互いの意見が一致した。
ここから先、余計なおしゃべりは無しである。
相手を殺すまで殴る、蹴る、撃つ……ただそれだけだった。
「【蚩尤】」
闘鬼神流・秘奥の型――【蚩尤】
カイムが使うことができる最大の奥義を発動させ、改めてディードと向かい合った。
嵐のような魔力を身に纏い、不死身の殺し屋めがけて地面を蹴った。




