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165.ガランク山決戦ー墓

『墓穴掘りのディード』

 その男は墓穴の中から産まれた。


 母親は臨月まであと少しというところで殺された。

 彼女を殺したのは通り魔の辻斬りである。己の剣腕を高めるため、罪のない人間を殺めて剣の肥やしにしていた。


 母親は一太刀で絶命してしまった。

 本来であれば……殺された母親の腹の中でディードもまた死ぬはずだった。

 そうならなかったのは、母親の愛情かそれとも無念か、執念か。

 殺された母親がアンデッドとなり、埋葬された墓の中で子供を出産したのである。

 腐乱死体となった母親は我が子を神殿に託して、そのまま司祭によって浄化されて消えた。


 ディードはその後、神殿で育てられることになる。父親であった人物はディードを捨てて逃げ出した。


 彼がアンデッドになったというわけではない。

 母親が不死者となっていたにもかかわらず、ディードは間違いなく生きていた。

 それは奇跡的な出来事だったが……それでも、やはり忌み子ではあったのだろう。

 ディードの肉体は、他の者達とは明らかに違っていた。

 ディードは不死身だったのだ。アンデッドとは違う意味で死なない肉体を持っている。

 ぬかるみで転んで頭を打った時も死ななかった、ケンカで刺された時も、魔法の暴発に巻き込まれて全身が火だるまになった時も。誤って毒キノコを食ってしまった時も。

 母親を殺した仇……通り魔の剣士と戦って首を斬りつけられた時も、ディードは死ななかった。わずかに血が出ただけである。


 人間を超える強靭的な肉体により、生命力により……ディードは死神の手から逃れて生きながらえてきた。

 そんなディードを町の人々は頼もしく思うよりも、恐れた。

 人外の怪物として排斥しようとした。墓穴より産まれた忌み子を墓に戻そうとした。

 同じ町に暮らしていた者達に責められ、刺され、燃やされ、崖から海に突き落とされ……それ以来、ディードは表舞台から姿を消すことになる。


 享年十五歳。

 悲劇より産まれた子供は悲劇の中に没した。


 それから数年後。

 裏社会において『墓穴掘りのディード』と呼ばれる殺し屋が名を馳せるようになり、多くの人間の命を刈り取るようになった。

 その殺し屋の最初のターゲットになったのは、奇しくも彼の父親である。

 妻の死、忌み子の息子を捨てて他の町に逃れたその男は、商会を立ち上げて成功者になっていた。

 わずか数年で成り上がった豪商を恨む人間は多く、殺し屋に依頼を出したのだ。

 仲介人がディードを選んだのは、悪意か余計なお世話か、それとも偶然の女神の悪戯か。


 父親の血を浴び、墓穴を彫り……ディードは今日も人を殺す。

 それ以外の生き方など、知りもしないから。


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