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163.ガランク山決戦ー変

「ギイイイイイイイイイイイイイイイイイィッ!」


「撃て! 撃ちまくれ!」


「オオオオオオオオオオオオッ!」


 ダンダンダンッと立て続けに破裂音が響き渡る。

 無数の弾丸を撃ち込まれて……石の皮膚を持ったオオトカゲが地面に倒れた。


「ハア、ハア……やった……」


「クソッ! 三人もやられちまった……!」


「何度目の襲撃だよ……ここの魔物は人を襲わないんじゃなかったのか?」


 その男達の手には黒い金属が握られている。

『銃』と呼ばれる火薬を破裂させて弾丸を撃ち出す武器だった。

 彼らは無数の弾丸を撃ち込んで、襲いかかってきたロックリザードを倒したところである。


「御無事ですか、『ミストレス』」


「ええ、問題ないわ」


 部下の黒ずくめの言葉にドレス姿の女が応える。

 真っ赤なドレスの女と黒ずくめの男達……殺し屋組織『カンパニー』のボスである『ミストレス』と部下のエージェントだった。

 ミリーシアを暗殺するためにガランク山に登ってきた彼らであったが……ロックリザードに襲われていたところである。

『カンパニー』はいくつかのグループに分かれて、別々に登山をしているのだが……『ミストレス』を中心としたグループは度重なる襲撃により、人数が半減していた。


「参ったわねえ。もう十人しかいないじゃないの」


 半分まで減った部下を見やり、『ミストレス』が溜息を吐いた。


「この様子だと、他のグループも襲撃を受けているでしょうね……やってくれるじゃない、ミリーシアちゃんってば」


 この岩山に棲んでいる魔物は滅多なことでは人を襲わない。それは事前に調べてあった。

 しかし……『ミストレス』達はすでに四度も魔物に襲われている。明らかな異常事態だった。


「まさか……ターゲットが何かしたのでしょうか?」


「それしか考えられないでしょう? どうやって魔物を(けしか)けたのかはわからないけれど……頭数の差を魔物で補うなんて驚いたわ」


 どうやって魔物を操っているのかは知らないが……厄介なことである。

 凶暴化した魔物をやり過ごさなければ、頂上にいるミリーシアまでたどり着くことはできない。

 頂上に立っている旗が実際の距離よりも遠く見えてしまう。


「如何いたしましょう、『ミストレス』。一度、下山して体勢を立て直しますか?」


「そうねえ……ここまできて撤退だなんて会社の信用が損なわれるけど、それ以上の損害を出しては意味がないものねえ」


『ミストレス』が唇を指でなぞりながら思案する。

 ターゲットを前にして逃げ帰ることによる信用的な損害。このまま攻め続けることにより生じる人的な損害。

 どちらが『カンパニー』にとって大きいか天秤にかけるが……その結果が出るよりも先に、事態が動く。


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


「なっ……!」


「コイツは……!?」


 突如として、岩山の上側から一人の男が跳躍してきた。

 男が手にしていた大剣を振り下ろす。黒ずくめの部下の一人が身体を左右真っ二つに両断される。


「ああっ……!」


「この男は……『銀閃』か!?」


 呼び込んできた男は裏社会において『銀閃』と呼ばれている殺し屋だった。

『銀閃』は「フシュー、フシュー」と奇妙な呼吸音を漏らしながら、血走った目で『カンパニー』の面々を睨みつけてくる。


「よくも、よくも俺の兄弟を……」


「何を言って……」


「殺す殺す殺すころすころすころすコロスコロウスコロスコロスコロスウウウウウウウウウッ!」


「撃ちなさい!」


『ミストレス』が鋭く命じる。

 黒ずくめが一斉に銃弾を放って、『銀閃』を蜂の巣にした。


「この野郎……トチ狂いやがったのか?」


「味方じゃないとはいえ、どうして俺達を襲ってきたんだ……?」


『銀閃』の亡骸を見下ろして、黒ずくめが疑問を発する。

『カンパニー』と『銀閃』は同じターゲットを狙っているライバルであったが、だからといって殺し合いをする間柄ではない。

 いくら報酬の争奪戦になっているとはいえ、ルール無用というわけではない。同業者殺しは殺し屋のコミュニティにおいて御法度とされているのだから。


「この男、明らかに様子がおかしかったわ。まるで、私達を襲ってきた魔物のような…………ッ!?」


『ミストレス』が何事かに気がついて、慌てた様子で口と鼻を手で押さえる。


「どうされましたか、『ミストレス』」


「いけない……この山から下りるわよ!」


「へ……?」


 突然の撤退命令に部下の黒ずくめが唖然とする。


「ここに長くいてはいけないわ! このまま、息をしていたら……」


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


「なっ……!」


『ミストレス』の言葉を断ち切って、獣のような咆哮が放たれる。

 何発もの弾丸を受けたはずの『銀閃』が立ち上がり、血を撒き散らしながら吠えたのだ。


「コイツ、まだ生きて……ギャアッ!?」


「クソ! 撃て、撃て!」


「コロスウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!」


『銀閃』が大剣を振り回し、黒ずくめの身体を両断していく。

 暴れる『銀線』に黒ずくめ達が必死の形相で銃弾を撃ち込んだ。


 絶叫と破裂音がいくつもいくつも岩山に鳴り響き……そして、やがて止んだのである。


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